ボディスキャンと聞くと「ZOZOSUIT」の体験を思い出す方が多いでしょう。筆者の自宅にも届き、非常にユニークな体験をさせていただきました。
しかし一度使った後はそのまま押入れにしまってしまうか、多くても半年〜1年に一度しか使わないであろう弱点も感じました。初期ユーザーに無料でキットをばらまくことで、膨大なデータ収集につながる一方、「データ更新頻度の低さ」という課題点を実際の製品体験を通じて感じた次第です。
「計測」の障壁がグッと下がる2018年
データ収集の頻度を高めることが製品成長の軸になることは過去のトレンドからも明らかです。
たとえば月額洋服レンタルサービス「Stitch Fix」や「LeTote」は毎月商品フィードバックをもらう接点を自然な形で作り出しており、最低でも1顧客から年に12回データ収集できるサービス設計になっています(毎月利用していれば)。こうして定期的にフィードバックデータを基にサービスに磨きをかけています。
古いデータのままではサービス向上の機会を失いかねません。この点、ZOZOSUITは前述したように定期的にスーツを着てデータを集める導線ができていないため、継続利用を自然な形で高められるかが当分の課題となるかもしれません。
ここで大切な要素となるのはユーザーとの接点です。なかでも「計測接点」をどこに置くかが重要となります。
ユーザー体験を「計測」の観点からみると、競合として3Dボディスキャン技術を搭載した次世代体重計が挙げられます。奇しくも2018年は家庭用の次世代体重計スタートアップが始動する年となります。
Research and Marketsのリリースによると、全身ボディスキャナー世界市場は2022年までに328万ドルに至るそうです。世界規模で約300億円という数値は小さいかもしれませんが、この小規模市場を駆使して大きな商機を掴むかもしれないスタートアップが現れています。本記事では2社のスタートアップを紹介しつつ、彼らの戦略を考察していきたいと思います。
最初に紹介するのは「Shape(旧名ShapeScale)」。著名アクセラレータYCombinatorの2015年のプログラムを卒業。同社は家庭用体重計を2018年12月に発売予定で、価格は事前予約価格が349ドルになっています。
体重計からロボットアームが起動して、ユーザーの周囲を何度か回ります。計測時間はピッチ動画を見る限り15秒程度といったところです。
アームの先に取り付けてあるカメラが細かな身体情報を計測。目視では確認できない身体の変化を数値化します。取得データの種類は「太さ」「過去データと比較した太さの変化」「体脂肪」の3つ。
全ての情報はアプリで上で手軽に確認できます。特徴はユーザーと同じ格好をした3Dモデルを随時確認できる点。単なる数値データの変化だけを追うのではなく、実際どんな体格をしていたのか立体的に知ることができるのです。また、モデル情報にヒートマップが加えられ、身体の変化が可視化されます。
競合には「Naked Labs」が挙げられます。同社も2018年冬に体重計を販売予定。販売価格は1,395ドル。Shapeが12万ドルの資金調達に留まる一方、1400万ドルもの大型調達を果たしています。
Shapeとは違い、専用ミラーと体重計の2つをパッケージ販売します。ユーザーはミラー前に置いた自動回転式の体重計に乗り身体情報を計測。ミラーが3Dスキャナー代わりになっています。取得可能データはShapeとほぼ同等です。
ここまで聞くとモバイルアプリを使って身体情報を計測するサービスとの違いがあまり無いように思えるかもしれません。
実際、アパレル企業「Original Stitch」は自社で計測アプリを開発。ZOZOSUITと同じように取得データからカスタムメイドの洋服を提供します。また、アパレル店舗向けに3Dボディスキャン計測器を提供する「3DLOOK」も競合に数えられるでしょう。
しかし「手軽な計測」というユーザー体験を軸に比較すると、ShapeとNaked Labsの方がサービス価値において一歩先行している感があります。ZOZOSUITは専用スーツに着替える手順を必要とし、Original Stitchはスマホをどこかに立てかけて撮影する必要があります。さらに3DLOOKは店舗へ出向く「非日常体験」を要します。
この点、体重計と同じく、入浴後や自室の片隅で20秒もあればセットアップの必要なしで細かなデータを日々収集できる体験はやはり手軽です。
「計測」の外販を軸に戦う
計測が日常体験になれば、自ずとデータ収集回数を高める機会が増えます。そこで次にキーワードとなるのが「計測の外販」です。体重計と聞くとフィットネス市場が思いつきますが、幅広い市場展開及び提携企業の可能性が見いだせると考えます。
医療機関やアパレル企業はパーソナライズ製品・サービスを提供するためにこぞってユーザーデータを集める傾向にあります。こうした企業との連携により、体重計をハブにした巨大なプラットフォームビジネスの構築が考えられるのです。
あらゆる業種で活用できる元データを取得できる“One Stop Platform(ワンストッププラットフォーム)”の可能性です。
考えを少し飛躍させてみましょう。たとえば、ある大手企業の従業員に体重計を配布し随時測定データを収集することで、毎年恒例の健康診断コストの削減へも繋げられるかもしれません。
何か身体に大きな変化があれば、遠隔医療アドバイスを受けられる「First Opinion」のようなヘルスケア企業と提携してオンデマンド型の健康診断へシフトできます。また、専属ジムトレーナーからコーチングを受けられる「CoachUp」に代表されるフィットネスサービスとの連携により、福利厚生の充実化にまで展開できるかもしれません。もちろんアパレル企業との連携をすることで対ZOZOSUITの戦略も考えられるでしょう。
一度データ計測ハブを作ってしまえば、あとはレゴを組み立てるようにサービス拡充の戦略は無数に考えられます。
このように、ZOZOSUITを筆頭とする市場特化型の計測サービスをDisrupt(破壊)する可能性を持つのが年度内に発表される次世代体重計なのです。今後の製品展開に期待が膨らみます。
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