ASUSTeK Computerから、Intel 6シリーズチップセットを搭載したマザーボードが発売された。今回、このうちの3モデルを借用できたので、写真とともに紹介したい。
発売時からIntel 6シリーズは人気が高いが、特にASUSTeKの製品については小売では半数を超えるシェアだという。その人気の秘密を、実際の使用感を交えながら分析していきたい。
なお、2月7日現在、Intel 6シリーズチップセットのSATA 3Gbpsポートの不具合を受け、マザーボード製品は店頭在庫分についてはすべて回収され、購入できない状況になっている。また、購入したユーザーに対しては4月~5月頃をめどに交換をはじめるというアナウンスがされている。早い時期の販売再開に期待したいところだ。
●P8P67 WS Revolution1月末に発売された一般向けラインナップの最上位モデルが(ゲーミング向けのR.O.G.シリーズでは「Maximux IV Extreme」が存在する)、この「P8P67 WS Revolution」だ。実売価格は29,800円前後。
基板を見ただけではASUSTeKのほかのマザーボードとなんら変りないが、PCI ExpressのブリッジチップとしてNVIDIAの「NF200」を搭載し、PCI Express x16スロットを4基備えるのが特徴だ。
新Core iシリーズ(Sandy Bridge)は、従来のLynnfieldなどと同様、CPUに16レーンのPCI Expressしか備えないため、大抵のマザーボードでは2枚以上のマルチGPU構成にする場合、1と2スロット目が8レーン、3スロット目以降ではIntel 6シリーズのチップセットから引き出したPCI Express x4レーンになってしまうが、本製品ではNF200を用いてCPU側の16レーンの下に32レーンぶら下げ、それを4つに分岐(1スロットあたり8レーン)する。仕組み上、チップセット側を利用するときよりも性能面で有利になる。
また、CPU電源周りもデジタル方式で16+2フェーズの「Digi+ VRM」となっている。この方式はアナログ方式と比較して効率が高く、スペクトラム拡散方式を用いることで92%の効率を達成したと謳っている。また、ノイズが抑えられており、オーバークロックなどにおいて安定性の面で有利としている。なお、Digi+ VRMは一部ほかのモデルにも搭載されている。
従来から搭載しているオーバークロックチップ「TPU」と、省電力チップ「EPU」も踏襲し、EFI BIOS上やソフトウェア上からオーバークロックや電圧設定、HDDやファン速度などを設定可能だ。なお、TPUとEPUはマザーボードのスイッチでOFFにすることもできる。このほか、IntelチップによるデュアルGigabit Ethernetや、POSTコードの表示や電源のON/OFF、リセットの操作が行なえる「G.P. Diagnosis Card」(付属品で、TPMモジュールのコネクタに挿す必要がある)なども特徴となっている。
インターフェイス周りではIEEE 1394やUSB 3.0×2など一通り押さえている。また、バックパネルにPS/2ポート、S/PDIF、USB 2.0を8基備えており、通常利用において特に困ることはないだろう。マザーボード上に通常形状のUSBポートを装備するのもユニークで、バラック状態で活用できそうだ。付属品も、SLIケーブルや3way SLIケーブル、eSATA/USBのブラケット、シリアルポートのブラケット、SATAケーブル8本と豊富。ハードウェアの完成度としては価格に見合うだけの高いレベルにある。
製品パッケージ | パッケージは見開きで機能を説明 | 付属品の一覧 |
P8P67 WS Revolution | リアのインターフェイス部 | USB 3.0コントローラ「μPD720200」と、Intel製のGigabit Ethernetコントローラ |
EPUのスイッチで省電力機能をOFFにできる | 同様にTPUのスイッチでオーバークロック機能をOFFにできる | マザーボード上に通常形状のUSB 2.0ポートを2基備える |
16+2フェーズのデジタルVRM「Digi+ VRM」 | MOSFETの実装は裏面までに及ぶ | CPU周辺のヒートシンクは高さが抑えられており、大型のサイドフローCPUクーラーも装着できる |
POSTコードの表示や電源のON/OFF、リセットの操作が行なえる「G.P. Diagnosis Card」 | 「G.P. Diagnosis Card」を装着したところ | PCI Expressのブリッジチップ「NF200」 |
Intel P67 Expressチップセット | SATAのポート。白色が6Gbps、水色が3Gbps、青色が6Gbps(Marvell製9128によるもの) | メモリスロットは片側のラッチのみとなっており、もう片方は突起のみ。これによりビデオカードを外さなくてもメモリの取り外しが可能で、なおかつメモリクーラーも取り付け可能 |
しかし、本製品の特徴はこうしたハードウェア面よりも、むしろEFI BIOSを含めたソフトウェア面である。
まず、EFI BIOSだが、GUIになったことでマウスでの操作が可能になり、より直感的に操作できるようになった。
起動方法は従来と同様、キーボードのDELキーを押しながら設定画面に入るわけだが、デフォルトで、CPUのクロックやメモリの設定など、複雑な設定を省いた「イージーモード(EZ Mode)」でEFI BIOSが起動する。このイージーモードは1画面のみで構成され、ハードウェアモニタリング、起動デバイスの順番、表示言語、そして動作モードが設定できる。
動作モードは標準設定のほかに、ファンの回転速度を抑えるモードや、自動オーバークロックして性能向上をはかるモードが、ボタン1つで切り替えられるようになっている。これは前述のTPUとEPUの機能を活用したものだ。当然、自動オーバークロックは動作保証外になるので注意されたい。
画面右上にある「Exit/Advanced Mode」のボタンを押すと、より詳細な設定ができるアドバンスドモードへ移行する。こちらは従来のBIOSと同様、CPUの電圧や倍率、オンボード機能のON/OFFなど、設定項目は多岐に渡る。こちらもマウスで操作できるようになっており、ホイールの上下で項目間の移動ができるようになっているなど、細かい配慮が見られる。
ただ、気になったのは数値の設定方法で、例えば電圧を設定する場合、具体的な数値をキーボードで入力する必要がある。せっかくマウスで操作できるようにしているので、数値変更できるよう横に矢印ボタンでもつけていれば、マウスだけで操作は完結するのだが、いちいちキーボードを使わなければならないというのは面倒だ。おそらく万全を期して簡単に弄れないようにした配慮だろうが、「それなら従来のBIOSのUIでいいよ」と思ってしまう。逆に言えば、キーボードに慣れているユーザーであれば従来通り操作できるということでもある。
EFI BIOS起動直後のイージーモードの画面 | ブートデバイスの順番をマウスのドラッグで変更できる | EFI BIOS上から直接ブートデバイスを選択してそのまま起動することも可能 |
アドバンスモードへの移行画面 | アドバンスモードのメイン画面 | Ai Tweakerの画面では自動オーバークロックの設定などが行なえる |
OC Tunerでは自動的にオーバークロックを行なう。しかし試しにCore i7-2600Kでやってみたところうまく動作しなかった | Digi+ VRMの設定も行なえる | CPUの電圧設定画面 |
電圧変更はマウスで行なえず、キーボードで直接値を指定する | 詳細設定画面のCPU設定。Kモデルの倍率はここで設定できる | Turbo ModeやC3/C6のON/OFFなどもここで設定する |
詳細設定画面のオンボードデバイス設定構成。オーディオ機能やGigabit EthernetのON/OFFが設定できる | モニター画面。ファンの回転数コントロールなどもここから変更する |
起動デバイスの順位変更もここから行なう | ToolではBIOSの更新やプロファイルのロード/セーブなどができる |
一方、Windows用の総合ユーティリティ「AI Suite II」は使いやすくなった。従来、ASUSTeKと言えばユーティリティが豊富というのが特徴的だったが、どのユーティリティがどの機能に影響するのか分かりづらいという弱点もあった。本製品に付属するAI Suite IIは、ゲーミング向けのR.O.G.シリーズから受け継がれた綜合型のユーティリティとなっており、ツールバーから「ツール」、「モニター」、「更新」、「システム情報」といった一般的な言葉から、専用のユーティリティにアクセスできるようになった。UIも統一され、従来から大幅に使い勝手が改善した。
AI Suite IIの中でも、特徴的な機能として本製品独自の「Digi+ VRM」が挙げられる。この画面ではロードラインの補正度合いや最大電流許容量、スイッチング周波数などの変更が行なえる。いずれもオーバークロッカー向けの機能であり、一般ユーザーが設定を変更することで直接メリットが得られるわけではないが、デジタルVRM方式ならではの機能といえよう。
P8P67 WS RevolutionではBCLKの周波数が正しく反映されない、日本語が正しく翻訳されていないなど、多少のバグが散見されるものの、UIそのものは洗練されており、初心者から上級者まで必要な機能をうまく網羅、総じて高いレベルの完成度だ。
統合ユーティリティ「AI Suite II」のツールバー。 | 「TurboV EVO」はオーバークロック設定を行なうツール | 自動的にチューニングさせることもできる |
Kシリーズで動作倍率の変更を可能にするためには再起動が必要 | Digi+ VRMの設定画面 | |
電流の許容量を増やすことでオーバークロックの可能範囲を広げられるという | EPUの設定画面。CO2削減量なども表示される | 温度に応じてファンの回転数を変更できる「FAN Xpert」 |
電圧や温度などを監視する「Probe II」 | 温度の推移はグラフ化できる |
ファンスピードの回転数も時間の経過とともに記録される | インターネット上から自動的に最新BIOSをダウンロードしてアップデートできる「ASUS Update」 |
「P8P67」は、まさに“スタンダード”と呼ぶべきモデルだ。実売価格は18,000円前後。
スタンダードモデルなだけあって、実装は必要最低限+トレンドのみに絞っている。まず、電源フェーズは、P8P67 WS Revolutionと同じくDigi+ VRMだが、フェーズ数は12+2フェーズに減らされている。また、NF200といったPCI Expressブリッジは搭載せず、PCI Express x16スロットは2本となっている。このうち1基目はPCI Express x16固定で、2基目はサウスブリッジから引き出したPCI Express x1/x4である。なお、PCI Express x4として設定した場合、ほかのPCI Express x1スロットとUSB 3.0が利用できなくなるので注意が必要だ。
ユニークなのは、asmedia製のPCI Express→PCI変換チップ「ASM1085」で、PCIスロットを3基備える。Intel 6シリーズではPCIのサポートが打ち切られているためこのような実装となっているが、レガシーの拡張カードが利用できるのはうれしい。また、Bluetooth 2.1+EDRモジュールを搭載するのも特徴的だと言えよう。
バックパネルのインターフェイスは、USB 3.0×2、USB 2.0×6、IEEE 1394、S/PDIF、Gigabit Ethernet、PS/2×2、音声入出力とスタンダードな構成。ブラケットモジュールにより、USB 2.0×2とeSATA 3Gbps×1を増設可能だ。
EFI BIOSやソフトウェア面では、前述のP8P67 WS Revolutionと同等であるため、改めて紹介はしない。いずれにしても、機能に過不足なくコストパフォーマンスに優れたモデルである。
P8P67のパッケージ | パッケージの付属品はシンプル | P8P67の本体 |
12+2フェーズのDigi+ VRMを実装する | こちらもVRMの実装は裏面に及ぶ | CPU周りは結構余裕がある。ウェーブのようなヒートシンクが特徴的 |
バックパネルインターフェイス | ASM1085を実装することでPCIスロットの搭載を可能にした | こちらにもTPUのON/OFFスイッチがある |
「P8H67-M EVO」は、今回紹介する中で唯一Intel H67 Expressを搭載したmicroATXモデルだ。実売価格は16,000円前後。
ASUSTeKが発売するH67のmicroATXマザーボードラインナップの中で、最上位に位置するモデルだが、KシリーズのCPUを載せても倍率が変更できないHシリーズの制約からか、上記に挙げた2モデルに実装されているDigi+ VRMは装備されておらず、アナログ方式の8+2フェーズのVRMを備える。
拡張スロットは、PCI Express x16形状が2基、PCI Express x1が1基、PCIが1基。PCIスロットはP8P67と同様、変換チップによる実装だ。一方、下の方のPCI Express x16スロットは4レーン固定で動作し、CrossFire Xをサポートする。
P67にはない機能として、GPUをオーバークロックする「GPU Boost」機能を搭載。マザーボード上のスイッチをONにすることで有効になり、負荷に応じてGPUクロックが自動的にオーバークロックされる。
一方で、H67シリーズらしく、インターフェイス面は充実しており、ディスプレイ出力はDisplayPort、HDMI、DVI-D、ミニD-Sub15ピンを押さえている。また、バックパネルインターフェイスとしてUSB 3.0×2、USB 2.0×4、IEEE 1394、USB 2.0/eSATAコンボポート、Gigabit Ethernet、S/PDIF出力、PS/2、音声入出力などを備える。
microATXのマザーとしてはやや高価であるものの、限られたフォームファクタの中で多機能を求めるユーザーには魅力的な1枚に仕上がっているといえよう。
P8H67-M EVOのパッケージ | 付属品など | P8H67-M EVO本体 |
リアパネルのインターフェイス | CPU周りの実装 | VRMは従来のアナログ方式を採用する |
GPUをオーバークロックする「GPU Boost」のスイッチ | EPUのON/OFFスイッチを備える | スロットはPCI Express x16形状×2(下の1基は1レーンまたは4レーン)、同x1×1、PCI×1 |
というわけで3モデルを見てきたが、いずれもハードウェア/ソフトウェアの完成度が高く、ユーザーの支持が多い理由もわかる。特に従来弱点だったソフトウェアの煩雑さが大幅に改善され、洗練され使いやすくなっている。初心者はもちろん、Sandy Bridgeの性能を極限にまで引き出したい上級者にも応えられる製品といえよう。やはり、早期の再出荷が待ち遠しい。