2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」の実現を目指して住宅関連事業者やメーカー、流通・小売りに携わる企業が集い、ユーザーに心地良いスマートホームを段階的に進めていこうとしています。
2020年10月29日にはカンファレンス「LIVING TECH Conference 2020」を開催。全13セッションの中から、セッション2の内容を3回にわたって紹介します。
左から、松本理寿輝さん(ナチュラルスマイルジャパン株式会社 代表取締役、まちの保育園・こども園 代表)/大谷和利さん(フリーランステクノロジーライター、Gマーク·パートナーショップ神保町AssistOn取締役)/阿部純子さん(フリーランスライター)/町田玲子(株式会社小学館DIME編集室@DIME編集長)
※Session 2 前編※ なぜ「スマートホーム」「スマート家電」の真の便利さはユーザーに伝わりづらいのか。どうしたらユーザーに響く体験を提供できるのかを考える。
一般家庭のスマート“〇〇”について
町田(モデレーター): Session2では、「なぜスマートホーム・スマート家電の真の便利さはユーザーに伝わりづらいのか」「どうしたらユーザーに響く体験を提供できるのか」を、みなさんと一緒に考えていこうと思っております。
3年ほど前から日本にスマートスピーカーが入ってきましたが、まだ数パーセントしか一般家庭に普及していないのが現状です。今回、これはどうしてなのか、ユーザー目線で率直なご意見を伺えればと思っています。
また、さまざまなスマート家電やスマートホームと呼ばれるものが出てくる中で「どうやったら本当に便利なものをユーザーの方に届けられるのか」、みなさんの体験を交えながら伝えていければと思っております。
ということでこの回は「ユーザー目線で思ったことを言ってよい」と言われておりますので(笑)、本当に忌憚のないご意見をいただければと思っております。
まず、主婦目線というところから阿部さんにお伺いしたいのですが、これだけスマート家電、スマートホームと言われている中で、ご自身や周りの主婦の方も含め、みなさんそういったものを実際に使っているのか、どう接しているのかなどを伺えればと思います。
聞いたことはあるけれど「何ができるか」がわからない存在
阿部:今回のカンファレンスにあたって、知人や友人を含め30人近くの方に「みなさんのお宅でスマートスピーカーを使っていますか?」と話を聞きまくりました。男性女性、既婚未婚、20代~50代と幅広く聞きましたが、スマートスピーカーを使っていたのは実は1世帯だけだったんです。
他の方に「どうして使わないんですか?」とお聞きしたところ、「IoTとかスマート家電とかHEMS(※1)とか言葉では聞いたことがあるけれど、実際に何ができるのか、どう便利になるのか具体的な中身が分からない」と。分からないからそもそも興味が湧かない、ということでした。
※1 HEMS(ヘムス):Home Energy Management System(ホーム エネルギー マネジメント システム)の略語。家庭内の電気使用料などを"見える化"し、ユーザーがエネルギーを自ら管理するシステムのこと。
そもそも「スマートスピーカーを導入することがスマートホームなの?」っていうぐらいの認識で疑問符だらけということと、役立つかどうかわからない”曖昧なもの”に対してコストをかけて導入する必要性があるのか、という声をたくさん聞きました。
町田:阿部さんご自身はいかがですか?
阿部:使っていないですね。
町田:阿部さんはお仕事柄、取材などでそういった商品などに触れる機会は多いと思いますが、それでも導入されていない理由とは何でしょうか?
阿部:2年くらい前に3人のママ友と一緒にスマートスピーカーを導入した友人宅を見に行ったことがあるのですが、声で反応するとか、ネタとしてはすごく盛り上がったんですが、一緒に行った友人も含め「実際に欲しい」という気持ちまでには至らなかったのが、正直なところでした。
天気予報やニュースを見る、アラームをセットするなんてことはスマホだけでもできるし、リモコン代わりと言われても普通にリモコンを使えばいい。今まで自分でやってきたことを音声で指示するだけで、スマートスピーカーに任せることで生活が格段に便利になる、という感覚がありませんでした。私も含め、その時一緒に行った友人3人もまだ導入していません。
かといって、頭から「要らない」というわけではなくて、暮らしに役立つということが実感できればスマート化に意識が向くと思います。日本の共働き世帯は7割を超えているので、働くお母さんは「いかに時短するか、家事負担を減らすか」ということが大命題になっていますよね。
例えば、ロボット掃除機や食洗器は数年前まで「本当に使えるのかな?」と懐疑的な人が多かったんです。でも、使っている友人や知人の話を聞いたり、店舗でデモ販売を見たり、ネット上の口コミやレビューを見たりして、昔に比べるとかなり進化していることにみなさん気付き始めていますよね。ロボット掃除機や食洗器は今、主婦が欲しいアイテムとして、かなり上位に挙がってきていると思うんです。
ロボット掃除機の普及率は1割(9%)程度ですが、「これから使いたい」という意向の方は3割程度いらっしゃるそうです。ロボット掃除機とか食洗器の”潜在的な需要”は高くなってきているので、スマート化関連でも便利さが実感として伴ってくれば、意識は変わってくるのかなという気はします。
大人よりも高い、子供たちのデジタルへの適応力
町田:スマートホームやスマート家電が「便利なんだろうな」ということはわかってらっしゃるんですが、「実感として伴っていない」というのが現状という感じですかね。
日々お子さん達と接していらっしゃる松本さんにお伺いしたいのですが、私たち大人ってどうしてもデジタルというものに対して、なかなか入りずらい部分があると思うんですが、お子さんたちのデジタルに対する現状はいかがでしょうか?
松本:例えば私たちの園でも、いわゆるロボット掃除機を使っている園もあります。普通にロボット掃除機がお掃除をしてくれている風景を子供たちは見ていますね。それこそ最近はオンラインのシステムを活用して、子供たちが、時には世界と接点を持つような試みもしています。
マイクロスコープも保育の中で日常的に使っていたり、コロナ禍で休園になっていた中で、オンラインでの保育にも挑戦したのですが、例えば(デバイスの)ミュートなどを子供たちが自然にできるようになっているんです。
そういう意味ではすごく、デジタルは自然に子供たちの環境の中にあるような気がして。よく我々はVUCA(※2)とか、今はニューノーマルとかそういう言葉を使いますけど、子供からするとすでに生まれてきた時からもうこの世界なわけなので、子供からするとノーマルだと思うんですよね。
※2 VUCA(ブーカ):Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉。世の中の"不安要素"を指す。
それこそ人間は生物学的に、例えば雪国でもあるいは砂漠地帯でも進化していけるとか、長く生活していけるとか、人間のある意味”知恵”や”工夫”がありますけれども、変化に対しての適応力というのは、実は子供のほうがすごくあって。
この環境にまず自分が出会っていくということを、子供は自然に、そして巧みにするのはいつも身近に見ていて感じますね。ニューノーマルとかVUCAとか騒いでいるのは我々大人だけで、子供は割と自然とその文化に馴染んでいるな、という感じです。
スマート”○○”の現状について
町田:デジタルとかデジタルじゃないとか、そういう枠組みを分けることもないというですね。今お二人にお伺いした感じですと、やはり大人の方がデジタルに抵抗があって、お子さんはむしろ全然ないと。大谷さんの目線からもお伺いしたいんですが、今スマートホームとかスマート〇〇と言われるようなものの現状を、どのようにご覧になっていますか?
大谷:そうですね。私は長くテクノロジーライターをやっていますので、今お二人のお話をお聞きしていて思ったのは「初期のパーソナルコンピューター」と似たような感覚だなと。便利そうだし、あったら何かに使えそうだけど、でもなんだかわからない。それなりのお金がかかりますから、導入しにくいっていうのがあるんですね。
ただ、今はパーソナルコンピューターが多分ご自宅に最低一台、場合によっては二台とか入っていると思いますし、会社でも普通に使っていますよね。ですから時間はかかるんですけれども、価値とかメリットが理解されていくと当然伸びていくと思います。
期待できるのは、お子さんたちはそれらを普通のものとして扱っていて、デバイスも自由に使っていること。そういうお子さんたちがこれから育っていくわけですから、メリットが伝わって使えるということが分かれば、これからもっと増えると思うんです。
でも現状は、やっぱり「なんか便利そうだけど、どうしていいかわからない」というところだと思うんですね。そこに対して回答が与えられれば、一気に普及していく可能性はあるかなと考えています。
「何でもできる」よりも「こう使える」の方が価値は伝わりやすい
町田:今って「何でもできる」というのが先行していて、「何に使えるのか」が上手く伝わっていないような気がするんですが。
大谷:そうですね。例えば、食洗機だったら食器洗いができる。ロボット掃除機だったら掃除ができる。これはすごくわかりやすいですよね。たしかにスマートスピーカーも、絞れば「これができますよ」と言えるんですけど、「何でもできます」みたいなかたちで売られるので、かえって混乱してしまうと思うんですね。
専門性のある製品が集まってスマートホーム的な、あるいはリビングテック的な環境ができていくと思うのですが、今まだなかなかそこが見えていない。それが組み合わさって、連携し始めると本当に便利になるんですけども、個々のものだけだとやっぱりどこまでスマートなのかなっていう感覚をみなさんお持ちかと思います。連携させるには、今だとやっぱりちょっとプログラミング的な知識が必要だったりしますから。
ところが子供たちは、コンピューターの画面上でブロックを組み合わせてプログラムを作っているような時代ですから、そういう壁もだんだん乗り越えていくかなと。もちろんメーカーとしては、そういうことしなくても自由に連携できるような、そういう環境を作るべきなのですが......。
あまり知られていないスマートスピーカーの見守り機能
町田:ロボット掃除機がどんどん普及しているように、何かに特化して「これはすごい便利」というのが見えると、もしかしたら人は入っていきやすいのかもしれませんね。
例えば同じ”スマート”でも、スマートキーというものもあります。鍵を閉めて、いわゆるお子さんが帰ってきたかどうかわかるものや、「スマート宅配ボックス」と言えばいいんでしょうか、自分がいない時に荷物が届いたかどうかが見えるものもあります。具体的に「こういうことに使えるよ」とわかると入っていきやすい、というのはありそうですよね、阿部さんいかがですか?
阿部:私も製品発表会で知ったんですけど、実はスマート系のアイテムってセキュリティ機能があるものもあるんですよね。小学生のお子さんがいる家庭の場合、今は法改正されて小学6年生までは学童保育に行けることになったんですが、それでもやっぱり低学年の小学3年生までの受け入れが優先されていて、小学4年生以上の高学年のお子さんだと、放課後家に帰ってきて一人で、もしくは兄弟がいても子供たちだけで留守番しているような状況です。
働いているお母さんとしては安全面をすごく気にされると思うのですが、開錠の有無とか、カメラの機能とか、見守り機能があると、特に子育て中の働くお母さんに対しては訴求力があるかなという気がしますね。
スマート宅配ボックスのように、不在でも外出先からスマホの操作で受け取れて、実際に使ってみると、とても便利なものです。具体的な”便利ポイント”がわかると、スマート化というものが生活実感として身近なものになるのかなと思いますね。
町田:みなさん多分、「こういうものがあるよ」というのを、まだあまりご存じない部分もあるのかもしれませんね。
阿部:そうですね。「アレクサ(※3)なんとか!」とか、音声で操作するだけなのかなと思っている方が本当に多いので。実際は、幅広い機能があるということを知らない方が多いと思いますね。
※3 Alexa(アレクサ):Amazon社が開発したAIアシスタント。スマートスピーカーAmazon Echoなどに搭載されている。
中編へ続く。
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取材・文/久我裕紀