これからは「所有感」は求めない時代なのかも。
誰にとっても大きな投資である家電製品。できるだけ長く使うことを視野に、ちょっと思い切って購入するものですよね。それが最近では、数年で陳腐化するスマホにはじまり、ゆっくりと確実にボロが出るスマートテレビなど、もはや消費者として無視できない問題が目立つようになってきました。
スマート電化製品業界ではいったい何が起きていて、将来はどうなるのか。米GizmodoライターのVictoria Songが詳しく綴っています。
スマートテレビの急な不調
我が家では、2016年冬からSamsung(サムスン)スマートテレビを使っていました。ルームメイトを説得して50インチ、約600ドルのものを選びました。画質がよくて、Netflix、Hulu、Amazon Prime、HBO Nowアプリも使えます。スクリーンキャストがたまに途切れることもありますが、それも特に大きな問題とは感じていませんでした。
昨年、ブルックリンからマンハッタンに引越したとき、節約のためこのテレビをプリウスに乗せて移動しました。それ以後でしょうか、今まで問題なかったアプリはクラッシュしはじめ、ストリームの再生には時間がかかるようになったのは。アップデートはすべて完了し、コンセントを抜き差ししてみましたが、状況は変わりませんでした。最初はインターネットの問題を疑いました。でも、ほぼ同時期に購入したもうひとつのテレビは普通に作動してたんです。
結局、2019年のブラックフライデーを機に新しいものに買い替えることにしました。感情的にはちょっとウンザリしたけれど、ビックリはしませんでした。スマホだって、長く使いたくてもすぐ陳腐化するものだから、3年ごとに10万円くらい出して買い換えるようになりましたし…。結局どれだけお金を払って買っても、所有しているというより借りているような感覚で、定期的にアップグレード料金を払って買い替えするみたいなことなのかもしれない、と割り切りました。
思い返せば、子供の頃に使っていたブラウン管テレビは結局15年間くらい家にあったような気がします。あの頃と比べて何が変わってしまったのか...。
私がスマートテレビで経験した例は珍しくないようです。ちゃんとした家電を買おうと奮発して、最初の1〜2年は何の問題もなく使えていたのに、ゆっくりじわじわと、そして確実にボロが出てきたというのは、特に過去数年のあいだにスマートテレビを購入したという人たちにはあるあるみたいです。バッテリーは長く持たず、画面やアプリの読み込みに時間がかかるようになり、不具合が出てくるようになった、と。
「サポート終了のお知らせ」は突然に
Sonos(ソノス)は今年、古いデバイスのサポート停止を発表して猛バッシングを受けたことでもうすっかりお馴染みです。CEOのPatrick Spenceはブログを通じて消費者に謝罪し、古い製品はやはり段階的に廃止されるものの、バグ修正とセキュリティパッチは「可能な限り」提供すると発表しました。
もちろん、どんな家電製品でも10年経てばいろいろボロが出てくるものです。10年前のプロセッサに限界があるというのは、Sonosの指摘通りです。それでも、優れたスピーカーは定期的なメンテナンスも含めれば20年近く持ちます。多くの消費者にとって、スピーカーのような電化製品は長期的な投資であるはずです。
Sonosはその後、6月に新しいアプリをリリースすることを発表しました。これにより古いデバイスは古いアプリを引き続き使用する(か、互換性はあるものの、どちらかを選ばなければいけない)ことになり、6月以降に販売される新しいデバイスは新しいアプリを使えるようになるといいます。
Sonosの例は、IoT業界全体が将来直面するであろうアップデート問題を映し出した、直近の一例です。
Philips(フィリップス)のスマート電球「Hue」は、多くのサードパーティ製アプリと統合できて非常に便利です。ただし、安くはありませんけどね。フィリップスは「Hue」発売以来、スマート電球をグループ化したり、より高度な機能の多くを有効にしたりするために必要なWi-Fiブリッジをアップグレードしてきました。ところが今年の4月末には、第1世代ブリッジのサポートを終了するとのこと。
第2世代のブリッジを購入していない場合は、60ドルの追加費用をかける必要が出てきます。第1世代はそんなに古いものなのかというと、第2世代とのギャップはわずか3年。初代ブリッジを購入した人にとっては、5年でサポート終了を告げられたことになります。フィリップスのウェブサイトによると、ブリッジは交換後に最低3年間のアップデートとサポートを受けるとのこと。電球は15〜50ドルで、25年間持続することを意図しているんだそうです。それが、第1世代は5年でサポート終了…。こうなるともはや、よかれと思ってIoTエコシステムに飛びつく前に、本当に価値があるのかどうか考えたり、コスパはどうかなんて計算したり…。ちょっと面倒に思えてきます。
こういったある種の"不確実性"は、ガジェットの値段が高ければ高いほど増加するものです。IoT業界のなかで電球は比較的安価なほうです。上述のような維持コストはかかりますが、大きな電化製品と比べたら軽いほうだといえます。ただ、もっと高価な電化製品でも同じことがいえるかというと、そうとは限りません。ハイエンドなロボット掃除機は700〜800ドル。サポート終了が数年後に迫るかもしれないと考えると、長らく悩んでしまいそうです。
Dyson 360 Eyeロボット掃除機は、2015年の発売時には1,000ドルでしたが、2018年頃にはBest BuyやeBayでしか見つけることができなくなっていました。フィリップスやSonosはどちらも古いデバイスのサポート期間を保証していますが、IoT業界全体でこうした動きがあるかといえば、まだ標準化されていません。
所有からサブスクへ?
IoT市場は、2019年末までに約2120億ドル、2025年には1兆6000億ドル規模に成長すると予測されています。Amazonで取り扱われている家庭用IoT機器の数は増加傾向にあり、価格も手ごろになってきています。とはいっても、今はまだ誰もがスマート冷蔵庫や洗濯乾燥機を手にする時代ではありません。また、スマート家電を「買う」時代はやがて過去のものとなるかもしれません。
ForresterのIoTアナリストFrank Gillettさんによれば、IoT製品の課題のひとつは、顧客との関係性を継続的に維持すること。たとえば昔、電子レンジを購入したとします。(リコールを除けば)そのメーカーのことを思い出す機会はそうなく、買ったっきりになりがちです。
かつて、製造・設計コストと利益の関係はより明確でした。IoTデバイスが増えたいま、企業はサービスを提供するマインドセットに移行することが求められています。消費者からすると、製品に対する代金を支払って終わりかもしれませんが、企業側はアプリやサーバーの維持コストを負担することになります。これにより、消費者がデバイスを長期的に使用しようとするほどコストがかさむ構造になっているようです。
IoTはいまだ産業として初期にあり、企業が顧客の期待に応えるうえで理想と現実のギャップがあるのは明らかです。Gillettさんは「食洗機をサブスクライブしようか悩むとは思えない」と、すべての電化製品がサブスクリプションモデルになるとは考えづらく「最終的には、市場が何か別の方法で問題を解決するのではないか」と考えを示しています。
アメリカには、食材やレシピを提供する「BlueApron」やオンライン食料品店「FreshDirect」といったサービスがあります。車を所有することなく所有権をサブスクライブできる「ZipCar」のようなサービスを使えば、車を所有する際に発生する保険、ローン、ガソリン、保守費用といった負担を軽減できます。UberやLyftもこうしたサブスクリプションサービスに参加しています。
サービスとデバイスのバンドル
「Nomiku」は、真空調理デバイスを150ドルで販売していたアメリカのスタートアップ。特徴的なのは、製品と一緒に食事プランをサブスクする必要があったこと。メインディッシュは8〜14ドルで、サイドディッシュは4〜6ドル。食事の組み合わせや好みをカスタマイズしたり、RFIDで自動在庫追跡したりすることもできます。300ドル分の食料を購入すると、150ドル分(デバイスの値段分)の払い戻しがあるので、実質デバイスを無料で使えることになります。ただし、このサービスは2019年後半に終了。手ごろな価格のオプションが多かったことが主な原因とのこと。また物流面に課題があり、カリフォルニア外でローンチされることもありませんでした。
スマートオーブンの「Tovala」の例もあります。製品を自動スキャンしてパーフェクトな調理時間を自動で認識し、調理してくれるオーブンを取り扱っている会社です。独自の食事も提供していて、一定数買い上げるとオーブン代金300ドルから100ドル値引きされるというもの。
「Nomiku」と「Tovala」の両方のケースから、もしもAmazonが同様のことを数百ドル値下げして行なって、Amazon Freshサービスにバンドルしたとしたら? 将来のスマート調理器具の世界に対する幻想が一気にディストピアに変わるような…。とはいえおそろしく便利でしょうけどね。
そんな未来はまだ確定していませんが、現在、多くの企業がさまざまなレベルで成功を目指してテストしています。そしてそれらが完成するまでの間、IoTにはまだまだ多くの課題が残っています。
特に、スマートホーム製品のセキュリティ問題は注意が必要です。イギリスでは最近、IoTのセキュリティを強化する新たな法律が導入されました。アメリカでも法律的な対応の試みがありましたが、現時点ではあいまいに終わり、政府使用のデバイスに限定されています。イギリスで提案された新ルールは合理的ではあるものの、製造廃止、会社の廃業、ハッキングされた場合など細かい状況に対応できるものではありません。
結局のところ、それこそがスマートホームガジェットの問題なのかもしれません。ロボット掃除機など、ネット接続なしでも技術的にある程度機能するものもあります。Sonosの場合、レガシー端末であってもレガシーアプリで動作する期間が用意されています。そのほかのブランドやデバイスで用意されている対策は…、ないんです。そのためスマートアラームシステムは、サーバーがダウンすればただのプラスチックと配線。オフラインで機能する保証がない限り、スマートホームにお金をかけることに意義があるのか判断するのは難しい作業になりそうです。
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おかしなことに、我が家にあったもう一つのスマートテレビ(Samsungスマートテレビが故障したときに問題がなかったもの)も調子が悪くなってきました。 Hulu、Netflix、Amazon Primeアプリのどれも30分に少なくとも4〜5回クラッシュするように…。ルーターに近いのにWi-Fi信号をドロップし続けたりして、もはや説明不能な突然の展開です。買い替えるなら次のセールシーズンを待ちたいところですが、ここまで来ると果たして買い替えることに意味はあるのかわからなくなっちゃいますね。
たとえば、ちょっと高めの洋服を買ったときなら慎重に手入れをして「洗濯機では洗わない」とか何らかのポリシーを持てばものすごく長持ちするんですよね。もちろん、一般的な電化製品にはバッテリー寿命があるので「一生モノ」は叶わないかもしれないですが、それでも購入して数年ぽっきりで不具合が出たりやサポート終了が告げられたりするのはなかなか受け入れがたいように思います。
私(訳者)が住んでいるヨーロッパ圏では、冷蔵庫や洗濯機といった家電のリユースやリサイクル状況を向上する「インテリジェントなエコデザイン」に関するルールについて積極的に議論されています。製品ライフサイクルの短さに慣れてしまう前に、環境への影響についてきちんと向き合っておく必要がありそうです。
本来、スマートホームガジェットというアイデアはシンプルにかっこよくて、最新技術が詰まっていたり、家での作業の面倒なことを自動化して効率アップできたり、まさに未来感があってワクワクしたものです。未来のIoTにはどんなことができるのか素直に期待したいし、楽しみだからこそビジネスのあり方として持続可能で、消費者が不利にならないようなソリューションが出てきてほしいと願っています。