広島県の北西部に位置する、豊かな自然に恵まれた安芸太田町。やまあいのひらけた土地には、ほうれんそう・こまつなを栽培するハウス農場が点在する。
そのうち2つの農場ではいま、最先端のロボット技術やAI/IoT技術を活用した農業――「スマート農業」の実証実験が進んでいる。
テーマは、稼げる農業。
なかでも、目を引くのは、キャタピラが付いた「自動搬送ロボット」だ。人に伴走しながら、病害虫の防除や収穫などを手助けできるかどうか、動作確認なども含め、試行錯誤を続けている。
生産者が農業の現場で、本当に必要とするソリューション(解決策)を提供したい――。そう願って、派手さはないけれど、地道な取り組みで、広島県の農業を変えようとする挑戦者たちに迫る!
既存のスマート農業「実証実験」は、現場の要望に応えきれていない?
広島市中心部から、車を走らせること、およそ1時間。実証実験の舞台となる農場がある。農業の区分では、平野の外縁部から山間地にかかる「中山間地域」と呼ばれる場所だ。
こう話すのは、今回のひろしま型スマート農業プロジェクト「ひろしま seed box」(※)の仕掛人、広島県・農林水産局農業経営発展課、主査の児玉浩さんだ。
「ひろしま seed box」では今年度、3つのテーマに挑戦している。
代表企業をつとめるのは三栄産業。代表取締役の米山真和さん、実務を担当するプロジェクトマネージャーの沖川淳さんは、ともに熱い思いの持ち主だ。とくに米山さんには
という思いがあって、広島県の公募に手を挙げた。そして、コンソーシアムを組む会社探しは、ひろしまseed boxのマッチングプラットフォームを使って,地道に電話やオンラインの打ち合わせで思いを伝え、参加を呼びかけたという。
プロジェクトをリードした企画発案者の沖川さんは「すばらしいチームが組めた」と実証実験の成功を誓う――。
そんな2人の思いに応じた企業のひとつが、輸送用機械や地上走行ロボットを手掛けるCuboRex(キューボレックス)だった。
「こんなに簡単に組み立てられちゃうんですね!」
8月某日のこまつな農場――。
病害虫の防除や収穫の省力化の実証実験で利用する、CuboRexの自動搬送ロボット(クローラロボット)の試走があると聞いて、記者も同行した。今回は、同社の電動クローラユニット「CuGo(キューゴー)」を活用するという。
現地に行って、驚いた!
てっきり完成品が持ち込まれるのかと思っていたら、とかれた荷からあらわれたのは、キャタピラ(クローラ)、アルミフレームの外装、動力源などのパーツ。まずは、ロボットの組み立てから始まったのだ!
CuGoは、レゴブロックのように組み立て可能な構造を持つ。その特長を生かして、どんな場所で使うか、なんのために使うのか――現場の実情によってカスタマイズすることができる。
クローラロボットはなんと20分くらいで完成。
初めて実物を目にした関係者からは、そんな声も飛び交っていた。
一足先に来て、熱心に作業に努めていたCuboRexのエンジニア・寺澤元則さんが、少し手を止めて、こんな話をしてくれた。
それから彼は、クローラロボットの試走へ。実際に走らせながら、畑の畦(あぜ)や畝(うね)の幅や高さを確かめて、パーツの設置位置の調整を検討していた。
そんな様子を記者が見ていると、このクローラロボットの生みの親、CuboRex代表取締役でエンジニアの寺嶋瑞仁さんが顔をのぞかせ、
と話しかけてくれた。
寺嶋さんによると、試走させているクローラロボットには、まだ改良の余地があるという。現時点では、事前に聞いていた課題をもとに、基本的なパーツで組み上げた「初号機」に過ぎない、と。
今後、現場の状況や課題を見極めてから、必要な機能を付け加え、完成度を高めたクローラロボットとして仕上げていく。たとえば、この日は手元のコントローラーによる遠隔操作だったが、センサーを付けて自動化/自走化させる構想だ。
それぞれに異なる現場の実態や課題にあわせ、カスタマイズできる製品を提供する――。最高戦略責任者・羽田成宏さんは「こうした、ハードウェアなのに柔軟に対応するモノづくりは、寺嶋が大事にする考え方であり、CuboRexのスタイル」だと語る。
生産者からの期待も大きい。実証実験に協力する生産者の渡部正秀さんは、次のように話してくれた。
スマート農業、若手農家に取り入れてほしい!
今回の実証実験は、3年計画で進めている。
CuboRexが担当する実証実験は、1年目でクローラロボットの動作を、2年目でさらなる使いやすさや耐久性などを、それぞれ段階を踏んで検証していく。
稼げる農業をめざして――。広島県庁の児玉さんは
と期待を寄せていた。
スマート農業と聞くと、大掛かりな取り組みばかりが注目を集めやすいところがある。だが、足元にこそ目を向けて、生産者が望むたしかな貢献を続けていくスタイルもまた、農業分野のデジタルトランスフォーメーションに弾みをつけていく。
<企画編集・Jタウンネット>