5月21日に発売となった、新しい「Apple TV 4K」のレビューをお届けする。
正直に言えば、iPhoneやiPad、Macと違い、「誰もが買う製品」ではない。似たことができるものも多数ある。一方で、使う人によって、「便利だと思うところ」がこれほど変わってくるデバイスもない、という気がするのだ。
というわけで、過去のApple TVを全モデル使ったことがある(いや、本当に)目で、最新モデルの進化点を見ていこう。
2021 Apple TV 4K (Amazon.co.jp)
ハードは「時期に合わせたリニューアル」だが時勢には合っている
Apple TVというハードウェアは、アップル製品の中で比較すると「ゆっくりと世代交代していく」ものだと思う。今回の「Apple TV 4K」についても、前のモデルが出たのは2017年秋。IT機器で4年ぶりというのはかなり「ご無沙汰」感がある。
では、4年の間で劇的に機能が変わったのか、というと、率直に言って「そうでもない」と思う。後述する進化点の多くはOSであるtvOSの改善点なので、2017年モデルでも利用できる。プロセッサーは2017年モデルの「A10X」から「A12X」に変わり、だいたい2倍くらいに性能アップしているものの、その差が常に明確にわかるか、というとそうでもない。「テレビにつないで映像配信を見る」なら、そこまで差を感じないのも事実なのだ。
じゃあ今回のモデルがいらないのか、というとそれも違う。
違いを感じづらいのはあくまで「前のモデルと比較した」場合であり、Apple TVを「他の映像配信視聴用デバイス」と比較した場合、2021年モデルが「他のものより圧倒的に快適な存在である」のも事実なのだ。動作が速く、ゲームなど多彩なアプリが動き、スマートホームのハブにもなる。
2017年と比較した場合、当時とは比べ物にならないくらい映像配信の利用が進んでいる。海外だけでなく日本でもそうだ。2017年に「4Kの映像配信を見る」人は本当に限られた人だったが、いまやまったく違う。テレビで見るのが放送ではなく配信である、というのは日常だろう。「スマホやPCで見ればいい」「スマホやPCをテレビにつないで見ればいい」という時代ではなくなっている。
だが、2017年のモデルを今、そして今後も売り続けるのはちょっと無理がある。デザインも変えず、性能などを数年後でも使える形にリニューアルし、今の市場に提供することはとても重要なことなのだ。
だから、2017年モデルとは「箱」が大きく変わっている。背面には視聴可能な映像配信サービスのロゴが並び、連携する機器の紹介が書かれている。Apple TVは変わらなくても周囲が変わり、追いついてきたので、「今の状況に合わせた製品が出た」というのが実情なのである。
多機能であるだけに、使う人によって価値が結構変わってきそうだが、それもまた美点である。
iPhoneとの連携で簡単設定、ホームネットワークにも
じゃあ、どこが他のテレビ接続機器(セットトップボックス。以下STBと呼称)と違うのか?
まず、セットアップが恐ろしく簡単だ。ただし、iPhoneユーザー限定ではある。テレビ接続機器の設定の課題は、設定のめんどくささにある。リモコンでの文字入力が大変だからだ。
だが、iPhoneユーザーがApple TVを使う場合にはとてもシンプルである。iPhoneをApple TV本体に近づけて、iPhone側で「設定」ボタンを押すだけだ。これで、Apple IDからWi-Fiの設定まで、ほとんどが自動で終了する。アップル以外の映像配信を使う場合には、それぞれのアプリのダウンロードと設定が必要であることに変わりはなく、そこは如何ともしがたいのだが、それでも、数多くのSTBの中ではシンプルであることに違いはない。
ホームネットワークの設定も、すでにiPhoneやiPadなどから利用可能になっていれば、それがそのまま引き継がれる。Apple TVを追加すると、それが家庭内での機器の中心になり、屋外から命令を送って操作することも可能になる。この辺がシンプルであるのも、Apple TVのメリットと言えるだろう。
一方、肝心の動作に関しても快速だ。UIは最新のtvOSへのアップデートで若干変更になった。だが、アプリを登録し、それで色々なことができること、切り替えがサクサク高速であることなどは、過去から変わらずの美点と言える。
最新のtvOSの場合、iPhoneと組み合わせて「カラーバランス」調整機能が使えるのもポイントだろう。これは2017年モデルでも、新しい2021年モデルでも使える機能だが、Face IDを搭載した「iPhone X以降」のiPhoneが必須となる。
簡単に言えば、iPhoneのFace IDと近接センサーを使って画面の色を測定、その情報からApple TVが出力する色合いを変えてより適切なカラーバランスに変える機能だ。最近の高級テレビが備えている画質調整機能には劣るものの、低価格なテレビや少し古いテレビ、PC用ディスプレイで使うと効果的な機能ではある。
こうした要素が全て揃っているという点で、Apple TVはよくできたSTBだと感じる。
特に2021年モデルでは、リモコンが改良されたのもありがたい。
従来のモデルはタッチパッドで操作する形だったので、「ピッタリと好きなアイコンで止める」のが慣れないとやりづらかった。すばやく操作するにはタッチパッドがいいのだが、正確にボタンで操作したい時もある。
新リモコンはボタンになり、さらにボタンの上を撫でるとタッチパッドとして動くように。両方の利点が生きていて快適だ。また、テレビのリモコンを使わずに「ミュート」が可能になり、Siriのボタンが横について音声コマンドを使う時に使いやすくなったのもありがたい。
ゲームなどの対応が多彩なのが最大の付加価値
とはいえ、Apple TVには難点もある。価格が高いことだ。
AmazonのFire TV Stick 4Kが6980円、GoogleのChromecast with Google TVが7600円であるのに対し、Apple TV 4Kは2万1800円から。かなり価格が違う。
動作の速さやテレビの「カラーバランス」調整機能などもあるが、「映像が見れればいいから安く」という発想もあるはず。それは否定できない。
一方で、他の機器より優れた付加価値としてあげられるのは「アプリ」の多彩さがある。tvOSはiOSの発展系なので、テレビ向けのアプリも多数ある。最近はフィットネスなどのアプリも増えているが、やはり1番の魅力は「ゲーム」だろう。AirPlayを使い、iPhoneやiPadの画面をテレビに映してゲームを楽しむこともできるし、tvOSそのもので動くゲームを楽しんでもいい。
特に今は、定額制のゲームサービスである「Apple Arcade」があるため、遊べるゲームの幅も広がっている。ファイナル・ファンタジーシリーズの開発などで知られる坂口博信氏の最新作である「FANTASIAN」や、「みんなのゴルフ」シリーズの開発元であるCLAP HANZ開発による「CLAP HANZ GOLF」など、多数の魅力的なゲームがある。
それらのほとんどは、付属リモコンでなく「ゲームコントローラー」で楽しむことになる。最新のtvOSでは、アップル製品専用のものだけでなく、PS4向けの「DUALSHOCK 4」やPS5向けの「DualSense」、Xbox One/Series X|S/PC向けの「Xbox ワイヤレスコントローラー」にも対応している。設定方法が画面に出てくるため、使うのも簡単だ。
すでにこれらを持っている、という人もいると思う。そういう場合は映像配信とともにゲーム機が1台増えるような感じになるので、コストパフォーマンスは改善する。なにより、使い慣れたコントローラーが利用できるのはゲームをする上で重要と言えるだろう。
ただ、1点注意が必要なのはPS4のコントローラーを使っても、tvOS上での決定ボタンは基本的に「×」。「◯」決定ではない。ワールドワイドに合わせた形なので、そこだけは留意していただきたい。
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