肥満で認知機能が低下?
過体重や肥満が心臓の健康を損なうことは良く知られている。
では、認知機能への影響はどうだろうか? マクマスター大学(カナダ)のSonia Anand氏らの研究によると、どうやら認知機能への影響も存在するようだ。研究の詳細は「JAMA Network Open」に2022年2月1日掲載された。
Anand氏らは、カナダで行なわれている2件の大規模疫学研究のデータを統合して、内臓脂肪容積や体脂肪率と認知機能との関連を検討した。
解析対象者は、心血管疾患のない30~75歳の成人9,189人(平均年齢57.8±8.8歳、女性56.4%、白人83.8%)。認知機能は、デジタルシンボル置換テスト(DSST)、モントリオール認知評価(MoCA)という2種類の指標で評価した。
DSSTは0~133の範囲、MoCAは0~30の範囲でスコア化する。いずれもスコアが低いほど認知機能が低いことを表す。
内臓脂肪容積および体脂肪率をそれぞれ四分位で4群に分けた上で、年齢や性別、教育歴、民族性などの解析結果に影響を及ぼし得る因子を調整後、認知機能との関連を検討。
その結果、以下に記すように、内臓脂肪容積が大きく体脂肪率が高いほど、認知機能が低いという関連が明らかになった。
まず、内臓脂肪容積については、第1四分位群(内臓脂肪容積が少ない下位4分の1)のDSSTスコアが73.9(95%信頼区間73.3~74.4)に対して、第4四分位群(内臓脂肪容積が多い上位4分の1)は70.9(同70.4~71.5)だった(傾向性P<0.001)。
また、MoCAスコアは内臓脂肪容積の第1四分位群が27.1(同27.0~27.1)に対して、第4四分位群は26.8(同26.7~26.9)だった(傾向性P=0.003)。
次に、体脂肪率については、第1四分位群のDSSTスコアが75.3(同74.6~75.9)に対して、第4四分位群は72.8(同72.1~73.4)だった(傾向性P<0.001)。
MoCAスコアと体脂肪率との間には有意な関連が見られなかった。
肥満の程度が1標準偏差増加するごとに(内臓脂肪容積では36mL増、体脂肪率では9.2%増)、DSSTスコアが0.8低下するという関係も明らかになった。このDSSTスコア0.8という認知機能の低下は、約1年の加齢変化に相当するという。
この結果についてAnand氏は、「肥満が糖尿病や高血圧などの心血管疾患リスク因子を増やすだけでなく、認知機能とも関連のあることが明らかになった。ただし、認知機能の全ての側面と関連が認められたわけではない」と解説。
具体的には、内臓脂肪容積や体脂肪率と、記憶力や語彙力との間には関連がなく、有意な関連が認められたのは認知処理速度だったとのことだ。
認知処理速度とは、視覚や聴覚などで感知した情報を処理して反応するのに要する時間を意味する。
Anand氏によると、本研究で示された肥満と認知処理速度の低下との関連が永続的なものなのか、減量によって回復可能なのかは不明とのことだ。
ただし、「いずれにしても、肥満を回避することが鍵となる。体重増加を防ぐために、健康的な食事を取り、活動的な生活を送った方が良い」とアドバイスしている。
米テキサス大学サウスウェスタン・メディカル・センターのLona Sandon氏は、「肥満と認知機能との間に関連があるとしても、この研究のみでは、因果関係の有無は判断できない」とした上で、Anand氏のアドバイスには同意を示している。
「食事と運動の習慣の改善を、誰もが思いとどまるべきではない」と、同氏は認知機能低下に対するライフスタイル要因の重要性を強調している。(HealthDay News 2022年2月1日)
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(参考情報)Abstract/Full Texthttps://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2788555
構成/DIME編集部