F1ドライバー過酷な世界
時速190マイル(約306km)のスピードで、他のドライバーをコーナーで追い抜きながら、重量850kgのマシンの中で5Gの重力に耐えている自分の姿を想像してみてください。フリー走行90分間で、そんなことをを何度も何度もやっているところをです。
それを終えたときのあなたは、排気温度1000℃にも達すると言われるエンジンの熱によって、50°Cにも達する猛暑のコックピットで体重のおよそ5%を汗として失っていることでしょう。しかも、それは年に1度というわけではなく、9カ月間で23回も経験しなければならないのです。F1レースはまさに肉体的にも精神的にも、地球上で最も過酷なスポーツと言うことができるのです。
F1ドライバー・ダニエル・リカルド筋肉の鍛え方6種
このようなユニークで厳しい環境のために、あなたならどんなトレーニングを行いますか? レースに最後まで耐えうる肉体をつくるために、マクラーレンの所属の32歳のドライバー、ダニエル・リカルドは筋力トレーニング、ボディウエイトトレーニング、ファンクショナル ムーブ(全身の筋のつながりをもって行なう動的エクササイズ)を組み合わせた戦略的トレーニングをシーズンが始まる前に行っています。
【1】大胸筋全体を鍛えられる腕立て伏せ
リカルドが披露してくれた最初のトレーニングは、ごくありきたりのもの––「腕立て伏せ(プッシュアップ)」です。「とてもベーシックで、とても簡単なものです」と彼は言っています。
「全身運動とまでは言わないけれど、胸、腕、背中、コアの筋肉の部位を使い刺激することができます」とのこと。この説明を聞くと、非常にシンプルな動きに思えます。が、間違いやすいポイントがいくつかあるので要注意です。
リカルドによると、「プッシュ系の筋トレで大事なのが、息づかいです。腕立て伏せで押し出すと同時に、息を吐きだすことがポイントとなります。私の専属トレーナーのマイケルはいつも、『腕立て伏せの姿勢は、肘(ひじ)を常に内側にキープするように』と注意してくれます。私はつい肘を広げてしまいがちだからね」。
【2】体幹・腹筋を鍛えるプランク|お尻のえくぼ「ヒップディップ」をつくる副次的効果も
次は「プランク(ヒップディップ)」です。うつ伏せになって両肘とつま先だけを床につけた状態から、腰を左右交互に横に倒すという動きになります。
「モータースポーツの重要な部分で強さが求められるのが、コア(体幹)と安定性なんです」とリカルドは言います。「普段はこれを、もっとHIIT(高強度インターバルトレーニング)的なトレーニングの中に組み込んでいます」とのことで、この後に腹筋のオンとオフを30秒ごとに繰り返す別の腹筋運動を彼はこなしています。
「高速でコーナーを曲がるときには、4Gから5Gくらいの重力が身体にかかります。それだけの力が首やコアにかかっているんです」。リカルドによると、腹斜筋を鍛えることでレースに必要な持久力を身につけることができるのだそうです。
【3】臀部の外転筋を使うサイドプランク
リカルドの体幹トレーニングがさらに続いても、それは驚くに当たらないでしょう。
「サイドプランク」を左右に数セットやりますが、リカルドはここで自分のフォームが固定できているかを確認するための、変わったテクニックを披露してくれました。
「トレーニング中にこんな変てこなことをやるもんだから、トレーナーは私の頭がおかしいと思ってるかもしれないんだけど、まだ何セットか残っていて気分がいいときは自分の腹筋にパンチを入れてみて、そこがしっかり固定できているかを確かめるんです」と言います。
Related Story効果的な6種の「体幹トレーニング」【4】内転筋に効果的なスクワットとストレッチ
リカルドがレース前に柔軟運動をやっている写真を見たことがある人には、次の動きはおなじみでしょう。
深く腰を落とすダイナミックな「スクワット ストレッチ」です。「私はかなり身体が固いんです。特に内転筋のあたりがね」と、リカルドは言います。「それにはスクワットが効果的だから、ダイナミック ストレッチを朝の日課にしようと––マイケルのおかげもあって––意識的に決めたんです」。
【5】半円形バランスボール「BOSU(ボス)」の効果的な使い方
脚の筋肉がほどよくほぐれたところで、次にドライバー特有の動きに移ります。
バランスボールに腰を下ろし、かかとを半円形バランスボール(BOSU:ボスボール)にのせた状態で、両手で持ったウエイトプレートを左右に動かします。
「レーシングカーの操縦席に座っているときは、背筋が伸びた状態とはほど遠い。乗用車みたいになっていなくて、むしろ仰向けに寝て両足を上げている状態に近いんです。これはボスボールを使って、その状態を再現しようとしているんです」。
ポジションが決まったら、コアを固定して、ウエイトプレートを左右にゆっくりと「クルマのハンドルのように」回転させます。
Related Story背中を痛めずにハムストリングスを強化する3つの筋トレ【6】広背筋を効果的に鍛える懸垂
最後の動きは、「懸垂(プルアップ)」です。
「広背筋には、これが非常に効果的です。たぶん、もっと広範囲の筋肉にも効果的だと思うけれど、私はこれで握力を鍛えるのが好きなんです」と、リカルドは懸垂用のバーを逆手(アンダーハンド・グリップ)で握りました。
「懸垂は簡単にズルができてしまいますので、すべての動きが確実にできるよう毎回必ず身体を最後までしっかり伸ばすことが重要です。コアもしっかり働かせて」。さらにリカルドは、こうも付け加えました。「もし、身体が前後左右に揺れはじめたら、コアが固定できていない証拠ですので気をつけてくださいね」とのことです。
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