リモートワークによる運動不足に悩む人が増えていますが、重い腰がなかなか上がらないというのが人情というもの。それなら、文字通りまずは「腰だけ」上げてみませんか?
この「『立つこと』から始める運動習慣」特集では、座りっぱなしがもたらす深刻な健康被害をお伝えするとともに、まずは「立つ」という最小単位の行動から運動習慣を始めることを提案します。もちろんそれ以降のステップアップとなる運動も含め、ぜひお試しください。
第4回は、パーソナルトレーナーとしてアスリートやビジネスパーソンのトレーニングをサポートする寺田健太郎さんが登場。前編でご紹介したメインとなる運動法に続き、後編の今回は運動効果を高める食事と睡眠についてお話を聞きました。
▼前編はこちら
「着実に体を変える」トレーニング法~現役トレーナーに聞く
寺田健太郎(てらだ・けんたろう)
日本体育大学大学院修了、柔道、水球、カーリングといった多岐にわたる競技の日本代表選手のトレーナーを担当し、東京オリンピックで金メダルを獲得した阿部兄妹のトレーナーも務める。柔道整復師、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA-CSCSなどの資格を保有。2019年には神奈川県クラス別ボディビル選手権大会70kg以下級で準優勝。運動、栄養、休養に関する豊富な知識を生かして自らも鍛え上げている。現在は「ACTIVE RESET」「STUDIO BAZOOKA」などでパーソナルトレーナーとして指導を行なう。
「運動・食事・睡眠」が生むプラスのサイクル
ビジネスシーンでしっかりとパフォーマンスを発揮させるためには、バランスのとれた食事と上質な睡眠を心がけ、疲労した脳を休める必要がある──。実は、これは「脳」を「運動後の筋肉」に置き換えても同じことが言えます。
寺田さんによれば、運動、食事、そして睡眠の3つを意識すると以下のような「相乗効果」が期待できるのだそう。
「運動×食事・睡眠」が生む好循環
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こんなサイクルができれば、運動効率が上がるだけでなく、仕事もプライベートもうまくいきそうな気がしてきませんか?
その意味でも、運動、食事、睡眠を総合的に考慮することはビジネスパーソンにとって必要な要素だと言えそうです。
食事で意識したい「PFCバランス」
前編でも触れましたが、寺田さんの元を訪れる人の中には「基礎ができていない状態で取り組み続けてしまう」人がとても多いとのこと。
たとえば、「痩せたいからとにかく食べる量を減らす」という方法。確かに、食べないので痩せはするものの、体や脳が正常に動くために必要なエネルギーが不足し、力が出なかったり、仕事のパフォーマンスが下がることも多々あります。
そうした無理のある方法ではなく、効率の良い方法で日常のパフォーマンスを最大化しながら、理想の体を実現させたいもの。
筋肉をつけたい場合も、痩せたい場合も、「摂取カロリーとそのバランス」を知ることから始めるのが大切です。
摂取カロリーとは、食べ物などに含まれる「エネルギー」のこと。この摂取カロリーが消費カロリーを上回ると体重が増える、下回ると体重が減る、というのが基本的な考え方です。
ただし、痩せたい場合であっても、やみくもに摂取カロリーを抑えると、エネルギーが不足した状態になり、せっかく運動しても筋肉が分解されてしまい、動けば動くほど筋肉が減ってしまいます。「食べないで運動する」ことは、筋肉をつけながら体を引き締めたい場合、逆効果になってしまうというわけです。
摂取カロリーの栄養バランスを知るためには、三大栄養素と呼ばれる「タンパク質(P)、脂質(F)、炭水化物(C)」が、摂取した食材にどれだけ含まれているのかを知り、狙ったバランスに近づける食品選びが必要になります。
筋肉をつけたいか、脂肪を落としたいかで摂取エネルギーは変わってくるものの、寺田さんいわく「PFCバランスの黄金比率」は次の通り。
PFCバランスの黄金比率
タンパク質:脂質:炭水化物=3:2:5
運動する人の1日当たりの推奨摂取カロリー(kcal)は「除脂肪体重×30~40」。その中で「P=3、F=2、C=5」というバランスに近づけていくのがポイント。
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体重が70kgの男性(脂肪を落としたい)を例に考えてみましょう。
1日の摂取カロリーの目安は2100Kcalなので、摂取カロリーのバランスを黄金比率に割り当てると、
タンパク質:630cal、脂質:420kcal、炭水化物:1050kcal
となるので、それぞれの栄養素で上記の数字を目指せばOK。
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とはいえ、どの食べ物にどのぐらいの栄養やカロリーが含まれているかは把握しにくいもの。
そこで「ぜひ習慣に」と寺田さんがすすめるのは、食品のパッケージに記載されている成分表を見ること。また、その際に覚えておきたいのが次の数字。
「タンパク質20g」と記載されていても、それが何kcalに相当するかわかりにくいですが、これを知っていれば計算しやすいでしょう。
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前述した例をもとに計算してみましょう。
タンパク質と炭水化物は1gあたり4kcal、脂質は1gあたり9kcalなので、必要なカロリーを各数字で割ります。すると、結果は次の通り。
タンパク質:630kcal÷4=158g、脂質:420kcal÷9=47g、炭水化物:1050kcal÷4=263g
したがって、1日の摂取カロリーを2100kcalにしたい人は、上記の量を目安に栄養を摂れるとベストということになります。
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まず、日頃自分がどんな食事をしているか振り返ってみることをすすめます。そうすると、思っていた以上にカロリーや脂質を摂っていたことに気づくと思います。
自分の体重から摂取量の目安を計算する習慣をつければ、1~2カ月程でコンビニやスーパーで必要十分量のエネルギー源となる食品を選べるようになります。
また、そうして得た知識と経験があれば、外食の機会でも上手にメニュー選びができるようになるはずです。
コンビニやスーパーのお惣菜も上手に活用して
運動をする人の食事は、1日3食+間食の有効活用が理想。
これに加えて、強度が高い運動をする人は、「運動の前後に食べる」「食事と食事の間を空けない」といった工夫が必要になります。なぜなら、先述のようにエネルギー不足の状態で運動をすると、体は筋肉を分解してエネルギーを補おうとしてしまうし、運動後は筋肉が疲労を回復するために栄養を欲するからです。
とはいえ、食事の内容にもきちんと気を配ることが重要、と寺田さん。
1食に炭水化物だけを食べたり、1食でまとめて2000kcalを摂るような食事はおすすめできません。
1回ごとにタンパク質、脂質、炭水化物のバランスを考えて食べて、余分なくカロリーを消費し、足りなくなる前にまた必要な分を補給するというサイクルが理想的です。
上手に食事が摂れなかった場合は、おやつを活用すると良いと寺田さん。タンパク質が豊富なプロテインバーならコンビニでもすぐ手に入ります。
寺田さんは、主原料が魚でタンパク質が豊富な笹かまやちくわを1日何回かに分けて食べることもあるのだとか。お酒のおつまみにも良さそうですね。
また、「自炊しよう」と張り切らなくても、コンビニの商品やスーパーのお惣菜を工夫して選べば、栄養バランスを理想に近づけることができると言います。
コンビニで選ぶ食事メニュー例
【ポイント】
こうした知識があれば、「飲んだあとの〆のラーメン」をやってしまったとしても、リカバリーができます。
大切なのは「せっかく我慢していたのに、これで台無しだ…」と諦めてしまわないこと。
ラーメン1食ぐらいでこれまでの努力が水の泡になることはないので、どうせ食べるなら“チートデイ(食事制限期間中に設ける、十分な食事を摂る特例日)”として思い切り楽しんで、次の日からまたがんばりましょう。
上質な睡眠をとるのための3カ条
栄養を上手に摂りながら満足のいくトレーニングができたら、次に目指すのは「上質な睡眠」。
そのために、眠る前はブルーライトを浴びない、寝具や寝室の温度・湿度を調節して睡眠環境を整える、といった一般的な快眠アイデアはすべて講じたいもの。
さらに一歩進むために工夫したいのは「タイミング」です。
理想は「ベッドに入る3時間前に運動を終え、2時間前に食事を終えて、1時間前に入浴を済ませる」という順番。
上質な睡眠をとるための3カ条
1. 睡眠の3時間前に運動を終える
→運動して優位になった交感神経を落ち着けるため
2. 睡眠の2時間前に食事を終える
→食事後は体が消化に注力し、眠りに集中できないため
3. 睡眠の1時間前に入浴をする
→入浴によって血行がよくなり、副交感神経が優位になるため
激しい運動は睡眠の3時間前までに終えておきたいところですが、ヨガやストレッチは副交感神経を優位にするので眠る直前でもOKとのこと。
また、「今日は栄養がきちんと摂れなかった」という日には、寝る前に消化に負担がかからないプロテインドリンクなど液状のものを飲むのも良いそうです。
なお、睡眠前の入浴はとても大切。なぜなら、全身をめぐる血液には酸素や栄養を届ける役割と老廃物を回収する役割があるため、体の疲労も回復しやすくなるからです。
お風呂から上がった1時間後は、体温が下がって眠気を催しやすく、そのタイミングで入眠できるとより深い睡眠に誘われるそう。
トップレベルのアスリートになればなるほど、食事と睡眠に気を遣っていますし、そこに時間と手間をかける選手が強くなっていきます。彼らはそれが本業ですからね。
私たちには「仕事」という本業がありますが、そのパフォーマンスを上げてくれるのも「運動・食事・睡眠」であることには間違いありません。すべてを完璧にやろうとせず、それぞれから1つでもできることを始めてみましょう。
もちろん、はじめは「立つこと」からでOK。後にこの特集を読んで、「こんなに運動も仕事も楽しくなっちゃった!」と言ってくださる方が1人でもいれば、編集部も冥利に尽きるというものです。
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Source:ACTIVE RESET, STUDIO BAZOOKA