ダイエットに挑戦したことがある人ならば、一度は「基礎代謝」という言葉を見聞きした経験があるはずだ。私たちの生命を維持していくため、一日に消費される必要最小限のエネルギー量である基礎代謝。この量の多寡は、私たちの健康にさまざまな影響を及ぼすと考えられている。
本稿では糖尿病専門医、内分泌代謝専門医である山本咲医師の解説のもと、基礎代謝がヒトの健康に与える影響や、基礎代謝量を高めるための方法などを紹介していく。
基礎代謝量の平均値
基礎代謝量とは、健康な人が生命を維持していくうえで必要とする最低限のエネルギー消費量のことだ。もっと具体的に言えば、「体を動かさずに安静にしている状態で、心拍や呼吸、体温調整などを維持するためにヒトの体で消費されるエネルギー」のことを指す。性別や年齢などにより違いはあるが、日本の成人男性では一日に1,500kcal前後、成人女性では1,200kcal前後が基礎代謝量の平均値であると考えられている。
すなわち、極端な言い方をすれば、休日に部屋に閉じこもって動画を見たり、ゲームをしたりしているだけでも、成人男性ならば約1,500kcalを、成人女性ならば1,200kcalを消費しているというわけだ。
基礎代謝量の計算方法
基礎代謝量は、個々の身長や体重によって異なってくる。それを算出する計算方法としては「ハリスベネディクトの式」が広く知られている。
「ハリスベネディクトの式は身長、体重、年齢を用いて計算できますが、煩雑なのでインターネットやアプリなどの簡易的な計算ツールを利用するのがお勧めです」
男性: 66.47+[13.75×体重(kg)]+[5.0×身長(cm)]-[6.75×年齢]女性: 655.1+[9.56×体重(kg)]+[1.85×身長(cm)]-[4.68×年齢]
この計算式に従い、以下の2人の基礎代謝量を算出してみる。
【40歳男性: 170cm/70kg】
66.47+[13.75×70]+[5.0×170]-[6.75×40]=約1,609kcal
【20歳男性: 170cm/70kg】
66.47+[13.75×70]+[5.0×170]-[6.75×20]=約1,744kcal
仮に同じ身長と体重の場合、年齢が20歳離れていれば基礎代謝量に130kcalの差が出てくるという計算になる。
「基礎代謝量は10代がピークで、以降は加齢に伴い低下していき中高年期を境に急低下します。基礎代謝が高いと一日に消費するエネルギー量が高くなるため太りにくくなり、低いとやせにくくなると言えます。基礎代謝を高めて太りにくい体を作り肥満を解消することは、生活習慣病の予防になると言えるでしょう」
基礎代謝量を上げるためにすべきこと
基礎代謝量が高ければ「太りにくい体」が手に入り、将来の生活習慣病の予防にもつながるなど、メリットが多い。では、どうすれば基礎代謝量を上げられるのかと言えば、ズバリ筋肉を増やすことだ。
「基礎代謝は安静にしている状態で体内の各臓器や組織などで消費されているエネルギーですが、そのうち22%は骨格筋で消費されていると考えられています。骨格筋の豊富なアスリートの基礎代謝は同じ年齢・身長・体重の人と比べて高いです。つまり、基礎代謝を高めるためには筋量を増やすことが重要なポイントとなってくるのです」
そのほか、冷えや腸内環境の乱れも代謝低下の一因になるので、体を冷やさないようにしたり、腸内環境を整えたりすることも基礎代謝量を上げるには重要になってくると山本医師は話す。
基礎代謝量を上げる生活習慣4選
基礎代謝量を上げるには筋肉を増やすことが肝要となってくるが、より効率的に上げるには以下の習慣を自身のライフスタイルに取り入れるとよい。
ウオーキングやジョギングなどを週に3回以上、一日15分から始めてみよう。
0.5~2㎏程度の軽めのダンベルを用いて、腕や大腿、臀部などの大きな筋肉を中心に鍛えるとよい。
腹式呼吸で通常の筋トレでは鍛えられないインナーマッスルを鍛えるのも大切になってくる。
有酸素運動や筋トレをしていても、暴飲暴食をしていたら意味がない。一汁三菜が理想ではあるが、そこまでは無理だとしてもきちんと主菜と副菜を意識して摂取し、丼物やラーメンといった「単品メニュー」で食事を終えることがないように心がけよう。
「筋力低下や肥満につながる運動不足に陥ったり、偏った食習慣を送っていたりすれば反対に基礎代謝量は低下していきます。運動も食生活も、数日行っただけでは体質は改善しません。長期にわたり継続することが必要です。また年齢や基礎疾患を考慮し、無理のない範囲で行うようにしましょう」
基礎代謝を高めるための食事面での工夫
基礎代謝量を上げるには、肥満に注意しつつ、筋力をつけていくことが重要となる。その際、一日に摂取すべきカロリー量と食事における栄養素のバランスを考慮しておくと効率がよくなる。
一日に必要な推定エネルギー必要量は、上記で算出した基礎代謝量に「身体活動レベル」(一日あたりの総エネルギー消費量を一日あたりの基礎代謝量で割った指標)をかけた値で把握できる。
身体活動レベルは、その人のライフスタイルによって異なり、全く体を動かす機会がない人は「I」となり、定期的な運動習慣を持つ人は「III」となる。
身体活動レベル(出典: 日本医師会)
身体活動レベルⅠ~III | 一日あたりの総エネルギー消費量を一日あたりの基礎代謝量で割った指標 |
---|---|
Ⅰ | 生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合 |
II | 座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合 |
III | 移動や立位の多い仕事への従事者。あるいは、スポーツなど余暇における活発な運動習慣をもっている場合 |
上記の表を目安にして見当をつけた身体活動レベルと自身の年代の関係性は以下の通り。
例えば上述の40歳男性の身体活動レベルが「II」の場合、一日に必要な推定エネルギー必要量は
1,609kcal(基礎代謝量)×1.75=2,815kcal
と考えられる。
「このエネルギーの中で炭水化物と脂質、タンパク質、その他栄養素をバランスよく摂取する必要があります。特に、タンパク質は筋量を増やすのに最適です。ただし、タンパク質ばかりに偏ると臓器に負担をかける原因にもなりますので、バランスよく摂るようにしましょう。また、ビタミンDも摂取できるといいですね。ビタミンDが体内で十分作用するよう、適度な日光に当たることも心がけましょう」
タンパク質の多い食品: 肉類、魚類、豆類、乳製品などビタミンDの多い食品:イワシ、サンマ、サケ、しらす、キノコ類など
まとめ
基礎代謝は私たちが生きていくうえで一日に最低限消費するエネルギーであり、ハリスベネディクトの式を用いることでおおよその量がわかる。この基礎代謝量が高いほど「太りにくく、やせやすい体」になり、基礎代謝量を上げるには筋肉を増やすことが重要になってくる。
効果的に基礎代謝量を上げるための方法はいくつかあるので、まずは自分ができる範囲から無理なく始めていくのがいいだろう。
やまもとさき都内の大学病院で初期臨床研修後、同病院の糖尿病代謝内分泌内科医局に入局。糖尿病専門医、内分泌代謝専門医を取得。現在は神奈川県内の大学病院にて糖尿病代謝内分泌分野を中心とした内科診療に携わっている。En女医会所属。
この監修者の記事一覧はこちら