Photo01:部屋の構成に応じて什器(例えばクーラーとかカーテンとか)の数が変わるから、すべての部屋でまったく同じという訳では無いにしても、スマートホームのセンサーとかコントローラの類はほぼ同じラインナップになっている
要するに照明とかエアコン/カーテン、セキュリティ(開閉センサーやロック)などを集中管理可能であり、かつ温湿度計などを組み合わせて快適な住環境を自動的に維持しよう、という仕組みだ。
具体的な設備であるが、たとえばエアコンそのものは普通の住宅用であるが、そのそばにスマートリモコン(赤外線リモコン用の送信機)が配される(Photo03)。
カーテンは専用カーテンレールとモーターがセットになったタイプ(Photo04)。
玄関はスマートロック対応(Photo05)、壁面に取り付けられる温湿度センサー(Photo06)と汎用スイッチ(Photo07)などのデモが行われた。
ちなみにこれらの制御はスマートフォンのHomeLinkアプリ(Photo08,09)からまとめて管理が可能である。
一番上に映像が出ているが、これはペットなどの見守りカメラの映像で、こうしたものもまとめて管理できる点は便利である。当然AndroidとiOSの両方に対応しており、手持ちのスマートフォンでそのまま利用できる。ここで賃貸物件向けにちゃんと配慮されているのは、この設定などが一発で行えるQRコードが用意されている事だ(Photo10)。
つまり物件の賃借人は、契約が終わって最初に部屋に入るとこの紙を見つけるので、自分のスマートフォンでQRコードを読み、そこからアプリをインストールすると、すぐに備え付けられている機器をスマートフォンから利用可能になるという仕組みだ。ちなみにカスタマイズなどもこの後行える。そして、賃貸契約が終了して賃借人が退去したら管理会社はワンタッチで設定を初期化して次の賃借人に備えるというものだ。このQRコードもワンタイムであり、設定そのものも賃貸契約が切れた以前の賃借人が外部から操作する様な事が出来ないようになっているという。
実のところ、機器そのものは決して難しいものではないし、後述するがHomeLinkそのものも、技術的な観点で言えば他の規格と比べてそれほど勝っているという訳ではない(というか、同等レベルと考えてよいと思う)。にも拘わらず、東京建物との契約を勝ち得た背景をもう少しご紹介したい。
同社CEOの河千泰進一氏(Photo11)によれば、そもそも同社はHomeLinkの技術を展開するのが目的であり、必ずしもそこでハードウェアとして自社製品を販売するつもりはなかったらしい。
ただしそうは言っても「(使える製品が)市場に無かった」から作ったものが少なからずある。例えばPhoto03のスマートリモコンとか、Photo07の汎用ボタンがそれである。HomeLink自体が実現していること(一部実現しようとしている事)は、Photo12の様なものである。当たり前だが、これだけの事を自社製品「だけ」でやるのは土台無理である。
それもあって、多くのベンダーが共通のHome Automation向けプロトコルを作って仲間づくりに励んだのが2010年代である。IntelのOICやIoTivityとその後継にあたるOCF、QualcommというかAllseen AllianceのAlljoyn、EchoNetLite、GoogleのProject Brillo(現在のAndroid Things)、AppleのHomeKit等など。いくつかの規格はまだ残っているのだが、まぁ概ね失敗したと考えてよいかと思う。他にもプロプラエタリなところではZ-Waveとかもこの部類に入る。理由はいくつかあるが、最終的には什器メーカーがこれに対応した製品を出してくれない限り普及しないという話である。
リンクジャパンが目覚ましいのは、この什器メーカーや機器メーカーとの連携である(Photo13)。
いずれも国内の、それも住宅関連では結構な大手が並んでいるのは、他の規格では見られない対応である。こうした連携企業を多数抱えているのが、リンクジャパンの強みとなっている。この結果、専用の什器に関しては連携企業に任せ、同社はあくまでも汎用の、それもそれほど難しくない(ただ市場にはあまり存在しない)製品に専念しているという訳だ。あるいは将来はスマートプラグとかスマートスイッチ、スマートリモコンなどは提携企業からの供給になるのかもしれないし、同社も別にそこに拘る訳ではないらしい。ちなみに別に操作はスマートフォンやスマートボタンだけでなく、スマートスピーカー経由での操作も可能である(Photo15)という話だった。
ちなみにHomeLink Appは、例えばGPSと連動して自宅に近づいたことを検出したら「ただいま」の動作を自動的に行わせるとかタイマー制御、あるいはスマートフォンそのものを汎用リモコン化する(スマートリモコンと連動)といった機能もあるし、こちらもバージョンアップで新機能を次々に入れてゆく事が可能となっているあたりも安心できるポイントではある。
すでにアイホンのドアモニターとかMIWAのスマートロック、RINNAI/NORITZの給湯器コントローラなどとの連携も実現しているし、今後はさらに提携する機器が増えてゆく事だと思う。
少し技術的な話をすると、HomeLinkはネットワークそのものはマルチ対応で、御覧の様にWi-Fi/有線、BLE、ZigBeeと複数の接続をサポートする(Photo16)。
同社の提供する機器は基本ZigBee対応になっているが、スマートリモコンはWi-Fiだし、他にBLE機器には専用GWを介して接続する形である。核になるのがスマートハブと呼ばれるものであるが、これは単にZigBeeのGatewayというだけでなく、一部Proxyの機能も持つらしい。
何故かという話だが、こうしたSmart Homeは基本Cloudベースになっていることが多く、実際Smart Speakerなどを使っての制御だと当然Cloud経由にならざるを得ない。HomeLinkそのものも、一部Cloudを使っているという話だった。そうなると怖いのはNetwork Downである。実際にあり得る訳で、昨年もGoogleで大規模障害が発生した結果、Google Homeが使えなくなり、これと連動したすべての機器が使えなくなるという話があった。いや普通にリモコン使えば何とかなる訳だが、大体そういう時に限ってリモコンが行方不明だったりする訳で、これはこれでちょっと死活問題である。この話を担当者に振ったところ、「スマートハブが通信の内容を記憶しているので、仮にNetwork Downの場合でもスマートハブと通信出来れば操作が可能」という説明があったためだ。一瞬、AWS IoT Greengrass的なものを想像したが、どう見てもスマートハブにそこまでの機能を持たせられる様には見えない訳で、簡単なProxyかなにか程度ではないかと思う。
この辺がはっきり言えないのは、HomeLinkの通信プロトコルそのものはプロプラエタリなためである。物理層はZigBeeなりWi-Fi/BLEなりとしても、その上がどうなっているのか、が見えないためである。ただ、既存のSmart Home規格のほとんどが、Open Standardを標榜して仲間集めに終始し、さっぱり普及をしないのに対し、リンクジャパンは敢えてプロプラエタリのままでプロトコルとチップの開発を行い、これを連携企業に持ち込むという形でさっさとエコシステムを構築したのは、Open Standardにありがちな「合意形成が遅すぎる」に対する1つの回答な気がする。
ちなみにプロプラエタリということはAPIが公開されていないという事でもある(提携企業には公開されているのではないかと思うが)。となるとIFTTTなどとの連携が出来ないという話で、これを残念に思うユーザーも居るのではないかと思ったが、これについて河千泰氏曰く「当初はIFTTT連携をサポートしていたが、誰も使ってくれなかったので、サポートコストが無駄になるので止めた」との事。特に2019年にGmailとの連携が終了、2020年秋には無料ユーザーへの制限が厳しくなったことで、IFTTTの利用を辞めたユーザーが少なくない事も、IFTTTのサポートを止めた理由の1つに挙げられた。まぁ実際IFTTTの設定にはそれなりの知識と、トライアンドエラーの手間が必要になるので、一般のユーザーからすればメリットになりづらいというのは理解できる。またmatterに関しては「様子見」との事。もしこれで大きくマーケットが広がる様なら対応も考える(けど、そもそもmatterがどこまで立ち上がるかが不明)という辺りであろうか。
海外では他にZ-Waveなど、すでに一定規模のマーケットが存在する規格は存在するが、国内に入ってきている製品はほとんど無いあたりで、とりあえずは視野には入っていないようだ。むしろスマート電力メーター向けのWi-Sun+Echonet Liteの方がむしろニーズはあるのかもしれないが、こちらはトランシーバが安くならないあたりが対応のネックになりそうだ。
ちなみに同社はこのHomeLinkを利用したスマートホーム向けのSolutionをeLifeとして提案している。賃貸事業者とか建設会社/不動産会社向けの提案資料によれば、初期投資(機器代)として数万円(構成や契約条件次第)の投資で、賃貸の場合なら入居率の最大60%アップ、売買の場合は成約率や単価のアップが期待できる、としている。今回のBrillia ist 上野のケースでいえば、一部屋あたり30万円ほどとの事。ただスマート機器に加えてルータとかONUなども全部含んでの金額だから、これはさして高いとは言えない。実際、先の賃貸情報で確認すると、このeLife対応が行われた7Fの賃料は、8Fと比べてちょっと高めに設定されている(Photo17)。
今回の試みは東京建物としても初めて、ということでとりあえず少し高めに設定して反応をみるといったところで、今後はまた値段が変わってくるのではないかと思う。
最後にちょっとこぼれ話。そもそも何故5・7階のみかというと、そもそもこの話が東京建物からリンクジャパンに持ち込まれたのが、内装工事が終わった後の段階であり、そこから内装の手直しまで行うのに全フロアは間に合わなかったからだそうだ。
なんで内装(というか電源配線のやり直し)が必要になったか? という答えの1つはPhoto04である。要するにスマートカーテンを使うためには、窓のそばの、それも比較的高い位置にコンセントが必要になるが、普通そんなところにはコンセントを設置したりはしない。他にも諸々の機器を設置するのに、やはりコンセントが必要になる。普通コンセントは邪魔にならないように部屋の隅の足元位の高さに置くのが普通だが、スマートホームではもっと高い位置に、しかも結構な数のコンセントが必要になる。結果、一部内装を剥がして配線のやり直しが必要になり、とてもでは無いが全部の階では間に合わなかったとの事だった。東京建物が11月に予定している次の物件では、当初から設計にこうした配慮が盛り込まれる予定との事。意外な落とし穴であった。