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集合住宅駐車場の充電設備はEV普及に向けた重要課題

電気自動車は拠点ガレージに設置した充電器や200Vコンセントによる「普通充電」を中心にして活用するのが便利です。毎日の通勤などで搭載バッテリーによる航続可能距離を超えるような長距離を走ることは、平均的なマイカーの使い方として多くありません。帰宅したら駐車場の充電ポートにケーブルを接続し、翌朝は十分に充電されている状態でスタートできます。

拠点駐車場での充電は、電気自動車運用にとって基本的な充電です。長距離ドライブの途中、高速道路SAPAなどで行う充電(おもに急速充電)を「経路充電」、宿泊施設などでの充電(おもに普通充電)は「目的地充電」と呼ぶのに対して、拠点駐車場での充電(ほとんどが普通充電)が「基礎充電」と呼ばれていることからも、電気自動車運用の「基礎」であることが理解できます。

とはいえ、ことに集合住宅の駐車場における電気自動車用充電設備の普及は、現在の日本ではなかなか困難な課題になっています。今回取材した事例をご紹介する前に、まず、現状の課題を整理しておきましょう。

①配線などにコストや手間が掛かる。充電ポートを設置しようとすると、当然、電力を引くための配線が必要になります。照明施設などのために近くまで電気が来ている駐車場は少なくないでしょうが、一般的に「200V×15A~30A=3kW~6kW×設置基数」というそれなりに大きな電力用の配線を引き、場合によっては配電盤などを設置する必要があります。電力会社への確認や契約手続きも、エンジン車用の駐車場にはなかった「手間」となってしまいます。

②普通充電器に高価なものが多く、コストが掛かる。ほとんどのEVは200V充電用ケーブルを車載しているので、2000~3000円程度で買えるEV用の200Vコンセントがあれば充電は可能です。でも、ケーブル付きやデザインにこだわった「普通充電器」を購入すると数万円~数十万円程度かかります。eMPネットワークの課金機能を備えた機種では1台150万円という機種もあります。

③合理的に課金する方法が悩ましい。充電の電気料金は利用者が負担するべきですが、利用した電力量や時間をどのように計測するか、どのように課金し、どのように支払うかという仕組み作りは、なかなか悩ましい課題です。こうした課題に対処するため、ユアスタンドやジゴワッツ『Ella』、ユビ電『WeCharge』など、予約&課金システムを備えた普通充電器やサービスが登場してきています。

④管理組合や大家さんの理解を得るのが難しい。こうした課題があるために、電気自動車用充電設備設置に対して、分譲であれば管理組合、賃貸の場合は大家さんの理解や合意、協力を得るのが難しいというケースが少なくありません。

新築時に設置すればいろんなハードルを容易にクリア!

合意形成やコストなどの課題の多くは、新築時に設置することでクリアできます。もちろん、充電設備や配線などのコストは必要になりますが、そもそも、電気自動車を今後必要なモビリティと捉えるのであれば、新築時の大きな予算の中ではあまり問題にはならないでしょう。

今回の事例は、まさに「環境への高い意識をもった大家さんが、自ら工夫して設置した充電設備」でした。

取材に伺った場所は、京都府南部の城陽市。『シャーメゾン レフィーノ』という24戸の新築アパート敷地内にある、24区画の駐車場のうち2区画に、電気自動車充電用の200Vコンセントを設置。さらに将来的には9区画までコンセントの増設ができるよう配線されていました。

情報提供いただいたのは中川喜久さんという方です。ただし、アパートの大家さんは母親である中川弘子さん。また、喜久さんの妹さんである尊子さんがこのアパートに隣接した戸建てにお住まいで、日々の管理業務を手伝っています。いわば、中川家の家族経営による賃貸住宅ということです。アパートを新築した土地は「田んぼだった」とのこと。実は、弘子さんが所有するアパートはこれが3棟目になるそうです。

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アパート近くの弘子さんがお住まいのお宅で、中川家のみなさんのお話しを伺うと……。喜久さんと中川家のみなさんが、「集合住宅への充電設備設置」という課題だけでなく、「次のステップ」とも言うべきハイレベルな課題にチャレンジしていることがわかりました。

新築のアパートは「ZEH」認定も取得

今回の物件の新築は約3年前から計画がスタート。自ら日産リーフのオーナーでもある喜久さんが家族のブレイン的な役割を果たし、駐車場への充電設備(コンセント)ばかりでなく、屋上には24戸それぞれ2kW強を配分(全体で52.8kW)できる太陽光発電パネルを設置。給湯システムやエアコンなども指定の高性能機種を採用して、経済産業省などが定める「ZEH=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の認定を取得しています。

当然、ZEH建築に関する補助金を活用しており、申請はハウスメーカが代行してくれたそうですが「プロが申請しても大変だった」とのこと。窓口となる組織の対応などがなんともわかりづらくてややこしく、「政府は本当にZEHを進めたいんやろか?」(喜久さん)と感じるほどだったそうです。

そもそも「ZEH」自体がかなりレベルの高い目標であり、認定には複雑な検証が必要、というのは理解できます。とはいえ、喜久さんが指摘するように、より広くZEHを普及させようとするのであれば、よりシンプルでわかりやすい補助制度の検討が必要なのかも知れません。

電気自動車の購入にも補助金がありますが、利用できるのは新車購入時のみだったり、高級車優遇の傾向があったりして、細々と生きる庶民としてはさらなるアップデートを期待したいところでもあります。もっと言うと、環境対応や電動車普及のための国の方策として「補助金」がベターなのか。政治家や行政のご担当者各位のアイデアや実行力にも期待しておきましょう。

ご自身のアイデアで電力量計を設置

さらに感服したのが、充電器(コンセント)の配電盤に配線ごとの使用電力がわかる電力量計が装備されていたことです。

日本国内では、計量法の規定によって電気料金をやりとりするためには「計量法に基づく型式承認又は検定を受けた計量器」を使用しなければなりません。でも、条件に合った計量器は高価。民間の、こうした電気自動車充電用設備に簡単に設置できるものではありません。

喜久さんのお仕事は、電子機器メーカーのエンジニアです。「工場の電力量管理などにも利用されている小型の電力量計を、自分で選び、回路図も自分で作成して工事してもらいました」と、すでにコンセントを設置した2区画分は電力量計を配電ボックスの外から確認できるように装備。増設可能な9区画分は、後から取り付けられるようになっていました。

「電気計量制度の合理化」については、すでに資源エネルギー庁などで検討が進められていて、2022年4月には「計量法の検定を受けていなくても、一定の基準を満たしたメーターを活用して計量」できるようになる、はずです。

とはいえ、喜久さんが取り付けた電力量計が「一定の基準を満たしたメーター」に該当するかどうかはまだ不明。メーターが示す「kWh」をもとに、入居者(充電利用者)と料金をやりとりすると、電気事業法に抵触してしまう懸念があります。

今のところ、まだ電気自動車の充電を利用している入居者はいませんが、近い将来、この駐車場のEV用コンセントを利用する方が現れた場合、メーターに貼られている「kWh」のシールを「×20分」とか「ポイント」に貼り替えて、あらかじめ「利用する入居者と充電料金の取り決めをして活用したい」(喜久さん)ということでした。

付加価値の高い集合住宅は入居者にも人気

このアパートが竣工したのは6月。取材に伺ったのは7月で新築すぐのタイミングだったのですが、すでに23戸が契約済み(まだ引っ越し前の部屋もありましたが)で、駐車場も2区画しか空いていないということでした。断熱性能も高いZEHである上に、各戸に太陽光発電設備が配分されているので電気料金も抑えられます。初期投資は少々かさんでも、高い付加価値をもたせることで、人気物件になっているということでしょう。

今のところ、駐車場にEVやPHEVは1台もない、ということですが、今後数年でどんどん増えてくる可能性が大。「駐車場にコンセントがあるのなら」と、入居者が充電可能な電動車を次のマイカーに選択するケースが出てくることも想定できます。

でも、不動産業者との打ち合わせで「EV充電設備」をPRしたいと相談したら、業者の担当者は「???」な顔。「不動産業界にEV充電設備のアドバンテージは、まだまったく認知されてなかった」と、喜久さんも苦笑いでした。

駐車場の施工業者にEV充電用コンセントを設置したいと相談しても、あまりノウハウがないようだからと、充電設備はコストパーフォーマンス重視でEV用コンセントとロック付きのポール(スタンド)は喜久さん自らが探して選択。業者に細かく指示しながら施工した、とのこと。

集合住宅の電気自動車充電設備はまだ前例が少ないとはいうものの、『シャーメゾン レフィーノ』のEV用コンセントは、喜久さんの思いが詰まった、先進的&合理的で素敵なコンセントなのでした。コンプライアンス的にやや様子見なところもあるので、機器の詳細や図面までは紹介することを控えますが、日本中の集合住宅オーナーさんの参考にしていただければ、と思います。

最後に、前述のように取材したのは7月のこと。テスラ『モデル3』でお邪魔して、途中、スーパーチャージャー伊賀で充電しようと思ったら故障していたレポートは、7月17日に記事にしましたが、肝心の新築アパート充電コンセントの記事を作成するのに、とても時間が経過してしまいました。中川さん、申し訳ございませんでした。そして、『シャーメゾン レフィーノ』の駐車場に、EVが並ぶ日を期待しています!

(取材・文/寄本 好則)