ぼくはそれまでのトレーニング方法と目標について話した。タイムは上げたいが、練習にこれ以上時間を割きたくない。オンライン上に残してある過去のログへのリンクを3人に送り、いまは「Strava」にすべて記録していると説明した。サイエンスといくらかの計算を使えば、年齢による影響に打ち勝つことは可能だ、と3人は言い切った。
「フィットネス」×「ランニングエコノミー」÷「質量」ランニングにかかわる生理機能は3つに分けられる。ひとつ目はフィットネス(体力)。酸素をどれだけすばやく筋肉に送ることができ、血中に乳酸が溜まる前にどれだけ走れるか、という問題だ。ふたつ目はランニングエコノミー(走りの経済性)、すなわち運動効率だ。3つ目は質量、要するに体重の問題だ。「フィットネス×ランニングエコノミー÷質量」。これで走るスピードが決まる。
歳をとったからといって、これらの変数が必ずしも悪くなるとは限らない。歳をとれば体重は増えやすくなるが、がんばって落とすことだってできる。けがのせいで悪い癖がつくと、歳とともにフォームが変わってしまう。例えば右の足首を痛めたら左足に体重をかけるようになる。でも無意識のうちについた癖も、たいてい意識的な努力で解消することができる。
スポーツサイエンティストのカービーによれば、何よりも重要なのは、筋肉がよくもなれば悪くもなるということだ。トレーニングを重ねると、筋細胞内のミトコンドリアのエネルギー変換効率が上がっていく。新しい血管が生じる。腱が丈夫になる。その一方で、除脂肪筋肉量は年齢とともに減少する。これはマラソンランナーにとって問題だし、スプリンターにとってはさらに厄介だ。とはいえ、この減少が必ずしも急激に起こるわけじゃない。
ランナーのスピードが落ちる最大の原因は体ではなく、生活だ。結婚して子どもが生まれ、労働時間が増え、親が病気になったりする。つまり、もっと大切なことに時間をとられるようになる。ランニングはたゆまぬ努力を続けた人が報われるスポーツで、いったん離れると復帰するのが難しい。体力が衰えるとランニングが楽しくなくなり、衰えがさらに加速する。歳をとればスピードが落ちるが、スピードが落ち始めたときに歳をとりはじめるというのもまた真実だ。
進化するエリート選手のトレーニング方法13年間ほど前から、ぼくはほぼ同じトレーニングを続けてきた。平日はほぼ毎日、自宅から職場まで片道6キロあまりの道のりを走って往復した(もちろんシャワーを浴びる)。マラソンの予定がしばらくないときには、週に50キロから65キロを走る。レース前の3カ月間は、週末に30キロ走をするとともに、通勤時に普段より速く走ることもある。この期間には週に80キロから100キロ近く走る。
メイヨークリニックの運動生理学者でランニングの歴史研究者でもあるマイケル・ジョイナーによれば、エリート選手のトレーニング方法は進化してきているそうだ。100年前、当時の世界最速長距離ランナーだったアルフレッド・シュラブは週に3日から5日ほど一定のペースで走るだけで、一日に走る時間は1時間にも満たなかったという。