FSW ATTACK! ライトウェイトスポーツ編
GENROQのホームサーキットである富士スピードウェイに集った6台の雄。片や欧州のスーパースポーツを脅かすコルベット。此方、エキゾチックなライトウェイトオープン。ステアリングを握る田中哲也のドライブで、剥き身のポテンシャルが暴かれる。(前編はこちら)
後編ではレーシングカーをも彷彿とさせる2シーターミッドシップの3モデルを全開アタック! レアなライトウェイトスポーツは如何なるパフォーマンスを見せるのか?
ルーフはおろかドアやフロントウインドウすら廃して走りに特化したゼノス E10S。フォード製2.0リッター直4ターボをリヤミッドに搭載する。
ZENOS E10S
「普通の人が乗れば人生観が変わる。刺激にあふれたライトウェイト!」
ある程度の予測が可能だったロータス 3-イレブンに比べれば、ゼノス E10Sは得体の知れないミッドシップ・スポーツカーといえる。アルミ押し出し材によって構成されたバックボーンフレームに再生カーボンを用いたコクピットタブを組み合わせたシャシーを持ち、250psを発揮するフォード製の2.0リッターターボをミッドシップマウントしている。
車両全体のバランスはエリーゼのそれに近く思えるが、ゼノスの本懐は足まわりの構造にある。前後とも純レーシングカーによく見られるプッシュロッド式のサスペンションが奢られているのだ。特にフロントのサスアームはフォーミュラカー並みに長いスパンが確保されている。
ゼノスにはフロントウインドウ付きの個体もあるが、今回のテストカーはウインドウレス。もし公道を走るとしても、ドライバーはフルフェイスヘルメットを被った方がよさそうだ。シートはバケットシートが奢られ、ロールバーも備わっている。
2ポットのアルコン製ブレーキシステムをフロントに採用。OZホイールは前16 後17インチ径で、タイヤはエイボンの前195/50R16 後225/45R17を装着する。インボードタイプのスプリングとダンパーをもつフロントサスペンションはダブルウィッシュボーンとなる。
「ブレーキペダルのタッチはスーパーGTのマシンのように硬い」
田中哲也はシートポジションを確定するとシュロス製のレーシングハーネスを入念にチェックする。
「ブレーキペダルのタッチがものすごく硬い。スーパーGTのマシンはみんなこういう感触ですね」
コースインしていくゼノスE10Sは、加速していく最中のターボキックで僅かにリヤを沈ませながら1コーナーへと消えていった。
ゼノス E10Sはフラットなフロアを路面に擦りつけるような姿勢でホームストレートを駆け抜けていく。そのアピアランスは静止している時よりもはるかに躍動的に見える。
「ブレーキのタッチは硬質ですごく頼もしいけれど、もう少し効いてくれてもいいかな。こういう硬いタッチのブレーキに慣れているボクが言うくらいだから、たぶん普通の人が(このブレーキペダルを)踏んだらすぐに膝が痛くなっちゃうよ」
ライトウェイトコンポジットシート2脚を標準装備。試乗車はシュロスのハーネスを装着しているが、3点式シートベルトも備えている。センタートンネルからは5速MTのシフトノブが生え、その後方にはエンジンスターターボタンが添えられている。
「タイトコーナーで切り返していくような時の身のこなしはとても軽快」
フロントホイールの中に見えるブレーキ・キャリパーはイギリスのレーシングカーに多く使われているアルコン製だ。恐らくブレーキパッドのチョイスの問題かもしれない。
「ブレーキペダルの踏面も高めだから、ヒール・トゥしようとするとフルブレーキを踏む必要がある。でもそうやってコーナーに入っていくと、ブレーキングで少しオーバーステアが露呈して不安定になる」
レーシングドライバーが担当エンジニアを急き立てるように、田中哲也はゼノス E10Sのインプレッションを伝えてくる。レーシングカーに近いクルマをドライブする時の彼は、すぐにでも自らの要求をセッティングに反映させたいのだろう。
「軽さは相当ですね。本当に軽い。だからタイトコーナーで切り返していくような時の身のこなしはとても軽快。でもハンドリングはいいけれど、パワーユニットはターボの掛かり方に少しクセがあって、タイトコーナーで合わせ込むのは難しかった。でも一方で300Rなんかでは少しアンダーが出て外に膨らんでいく。エイボンのタイヤ自体もサーキットを走るには少し物足りないかな」
ステアリングから覗くセパレートドライバーディスプレイにはエンジン回転数、速度、ギヤポジションなどドライビング時に最低限必要な情報を表示。センターコンソールに備わるTFTマルチファンクションスクリーンはより詳細なインフォメーションを提供する。
「ゼノス E10Sはライトウェイトスポーツ上級者向けの稀有な受け皿かもしれない」
3-イレブンと同じように、ゼノス E10Sの場合もまた、サスペンションセッティングをサーキット向けに調整しなおす必要があるのだろう。プロドライバーに言わせれば、ワインディングとサーキット双方の要件を満たすことができるセッティングなどありえないのだから。
「音は凄いですよ。スロットルを少し煽るだけでウエイストゲートの音が背中の後ろ辺りから響いてくる。パワーは250psというスペック通りの印象です。このシャシーならもっとパワフルでも楽しめそうな気がします・・・なんて、ボクは慣れているから普通にインプレッションしてますけど、普通の人が乗ったらビックリして人生変わっちゃうような刺激的なクルマですよ、コレは(笑)」
純レーシングカーと同じくセッティングを追求することに楽しみを見出す1台。ゼノス E10Sはライトウェイトスポーツ上級者向けの稀有な受け皿と言えるかもしれない。
ライトウェイトスポーツの代名詞とも言える数々の名車を生み出してきたロータス。バスタブ型のピュアスポーツ・2-イレブンの後継モデルとして生まれた3-イレブンにもその哲学は継承されている。
LOTUS 3-ELEVEN
「レーシングドライバーの本能を刺激する。ロータスが投入した最新・最速モデル!」
レーシングに端を発し、その後にスポーツカーメーカーとして成功を収めたロータスのDNAには、今なお速さに対する飽くなき追求が含まれている。そして時折彼らは、自らのモノ作りに対して矜持を示すように飛び切り速い“スペシャル”をリリースするのである。
最新にして最速のロータス、3-イレブンはシンプルなサーキットカーだった2-イレブンの後継モデルである。世界限定で311台が製造されるこのマシンにはストリート用とサーキット用のスペックが存在し、エンジンパワーをはじめとするスペックが異なっている。だが今回FSWに持ち込んだ個体はストリート用のエンジン(416ps)と6速MTのギヤボックスを搭載したプリプロダクションカーである。
インストゥルメントパネルには新型のTFTカラースクリーンを採用し、ロードモードとトラックモードの切り替えを可能としている。
「可能な限りシンプルに作られた最新にして最速のロータス」
ドライブを担当するのはレーシングドライバーの田中哲也。彼は2-イレブンをドライブした経験も豊富である。可能な限りシンプルに造られた3-イレブンもまた重量増を嫌いドアやルーフ、そしてウインドウ類が廃されている。田中哲也は慣れた様子で高いサイドシルを跨ぎバケットシートの上に立ち、それから両足をフットボックスに収めていった。
「乗り込むのは少し面倒だけれど、座ってしまえばコクピット内は広いですよ。ペダルとかシフトレバーの位置はエリーゼと同じですね」
ドライバーの前方には黒いウインドスクリーン状のパーツが備わっているのだが、このパーツは黒く塗りつぶされている。若干だが前方視界に影響がありそうだ。もちろんサーキット走行においてフロントノーズ付近を見る必要はないのだが。
エヴォーラ400で起用した3.5リッターV6インタークーラー付きスーパーチャージドをアップデートしたパワートレインは、ロードバージョンで416ps/410Nm、レースバージョンで466ps/525Nmのスペックを発揮。レースバージョンは6速シーケンシャルを組み合わせる。
「600〜700psクラスのスーパースポーツに匹敵するパワーウェイトレシオ」
スーパーチャージド・ユニット特有の粘度の高そうなエキゾーストノートをピットロードに吐き出しながら、3-イレブンがコースインしていく。その発進加速は見るからに俊敏で、相当にパワフルな印象を受ける。
3-イレブンのベースとなったモデルは現行のエキシージ Sだが、両車のパワーウェイトレシオを計算してみるとエキシージ Sの3.37kg/psに対し3-イレブンは2.22kg/psしかない。これは端的に言って600〜700psクラスのスーパースポーツに匹敵する数値である。5ラップ程度を走り込み、ピットインしてきた田中哲也に印象を聞いてみる。
「2-イレブンによく似ていますね。あのクルマを少し重くした感じ。車体が重く感じるというのはエンジンの特性もあって、5000rpm以上回してやるとすっきりとパワーが出てくる性格なんです。でもフロントスクリーンのようなパーツのお陰でやっぱり視界は良くないですね。コーナーのエイペックスの縁石が見にくいんです。深いバスタブに沈み込んでしまったような感覚で・・・」
FIA公認のカーボン製スポーツシートと4ポイントハーネスも標準装備となり、レースバージョンでは助手席はオプション装備となる。
「3-イレブンは、走りのステージに合わせてセッティングしていくレベルのマシン」
ロータスといえばエンジンパワーよりもコーナリング性能を第一義とするメイクスである。FSWでは最終の第3セクターが得意そうだが?
「2-イレブンもそうだったんですが、フロントがかなり軽いので、コーナーへの進入時の荷重のかけ方が足りないと曲がっていかない時がある。でもブレーキを残して入っていくとABSが効いてしまってアンダーステアを露呈してしまうことがある。この個体は試作車と聞いているので、車高とかアシとか、もう少しセッティングしていくといいかもしれませんね。少しセッティングをいじったら、これは面白いクルマですよ」
純レーシングにカテゴライズしてもいい3-イレブンは、走りのステージに合わせてセッティングしていくレベルのマシンである。リヤに掲げられた調整可能なウイングや車高によってダウンフォースの度合いも変わるだろうし、アライメントにも調整可能な部分が多い。
「3-イレブンの生産型が入ってきたら、ぜひもう一度FSWを走らせてみたいですね。できればXトラック製のシーケンシャルシフトが付いたサーキット用がいい」
ロータス最速モデルは、レーシングドライバーの本能を大いに刺激する1台だったようだ。
ゼノス E10Sやロータス 3-イレブンは2シーターを採用し、まだストリートカーの面目もたつが、BAC モノはシングルシーターというレーシングカーと同様の構成でエンスージアストを魅了する。これが公道を走れるとは俄に想像できないだろう。
BAC MONO
「過激なロードゴーイングレーサーは見た目も走りもフォーミュラそのもの!」
スポーツカーの体脂肪を極限まで絞った印象の3-イレブンやゼノスに対し、BAC モノはフォーミュラカーに最低限の保安部品を追加したような成り立ちを持っている。
「モノ」という車名が証明するようにコクピットは単座であり、設計時のコーナーウェイトに近づけるため、お尻の位置は固定されている。つまりドライビングポジションはペダルユニットとステアリングシャフトの調整によって合わせる必要がある。
いつも以上に真剣な表情でポジションを合わせる田中哲也。この手のクルマではコクピットに収まったドライバーは何もできない。ただメカニックに指示を出すだけである。
TillettとBACが共同開発したカーボンファイバー製シートはポジション固定式となるため、ドライブポジションはステアリングシャフトそのものとペダルユニットを前後に移動させて行う。ハーネスはFIA公認のウィランズ製を備えレースにもそのまま参加可能。
「このクルマは他の2台とはカテゴリーが違う。クルマ全体のバランスがいい」
BAC モノは鋼管のチューブラーフレームにカーボン製のボディパネルを組み合わせた筐体を持ち、ドライバーの背後に2.5リッターのフォード製4気筒自然吸気ユニットを縦置きしている。ギヤボックスはヒューランドのF3用6速が組み合わされ、シフトチェンジはステアリング裏のパドルで行う仕組みだ。
コースインするため1速にエンゲージさせると、バシュッという大き目のエア音が鳴り響く。発進時にはクラッチを使うが、それ以降はパドル操作だけでシフトが完了する。
数周をこなした後の田中哲也の表情は紅潮し、晴れ晴れとしていた。
「このクルマはカテゴリー違いですよ。クルマ全体のバランスがいい。5〜600kgの車重のクルマにしか醸し出せない楽しさがある。まるでフォーミュラカーみたい」
クイックリリース式の290mm径アルミ製ステアリングは、GEMS LDS4カラーディスプレイシステムをビルトイン。ドライブに必要な情報と操作が集約され、裏側にパドルシフトを備えるが、ギヤチェンジはパドル操作によって駆動する圧縮エアで行うシステム。
「ステアリングを切ればタイムラグがないまま、クルマがピッと反応する」
田中哲也はBACモノを絶賛した。軽いクルマしか醸し出せない楽しさとは、具体的にはどうなのか?
「箱のクルマは上屋の重さを絶えずコントロールしながら走らせるわけですけど、このクルマにはそれがない。ステアリングを切ればタイムラグがないまま、クルマがピッと反応する。純粋なドライビングができるということです。コーナーでタイヤが滑っても慣性がないから簡単に修正できる。100Rなんかはスロットルだけで曲がっていけるし、コーナーからの脱出でもすぐに加速Gが立ち上がるので気持ちがいい」
2.5リッターで280psオーバーというスペックは自然吸気ユニットとしては相当なものだが、扱いにくさはないのだろうか?
「変なクセはないですよ。スロットルの全開率が高くて、ずっと高回転を使っているからあまり気にならないというのもある。でもギヤボックスはシフトショックが凄くて、その部分が気になりましたね。2速にシフトダウンする時なんか、タイヤが軽くロックしてしまうこともある。ウェットだったら難しい」
APレーシングのフォーミュラ用4ポットブレーキシステムを採用。ベンチレーテッドディスクは前後共に295mm径となる。ホイールはOZとBACの共同開発による17インチアロイホイール、組み合わされるタイヤはクムホの前205/40R17 後245/40R17。
「限界まで攻めずともラップタイムは53秒台を刻む」
田中哲也のようにフォーミュラの経験のあるドライバーならば問題はないだろうが、BAC モノは一般のドライバーがすぐに運転できるようなクルマなのだろうか?
「かなり繊細にドライビングする必要がありますね。でも慣れの問題が大きいと思います。寝そべっているドラポジは特殊だけれど、視界はいいので走らせる際のデメリットはない。あとこういった軽いクルマは練習しやすいんです。例えば重量のあるクルマだとラップごとにタイヤのフィーリングが変わってしまうけれど、軽いクルマはタイヤをいじめないし、ブレーキもタレないから周回し続けた最後にベストラップを刻むような乗り方ができる」
この日は僅か5周ほどの周回だったが、BAC モノは田中のドライブで53秒台を記録している。
「正直なところ今回はボクも限界といえる領域まで攻め込んではいません。セッティングしていって、走り込めばもっとタイムは縮みます。でもこのクルマの本当の価値は、やっぱりナンバーが付いて公道を走れるという部分ですよね。だから足まわりにもピロではなくブッシュの箇所が残されている。公道を走らせたら、とにかく目立つでしょうね」
スペックを考えればサーキットにおける印象は順当なもの。次は公道で試すべきだろうか。
TESTER/田中哲也(Tetsuya TANAKA)TEXT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)PHOTO/森山俊一(Toshikazu MORIYAMA)、田村 弥(Wataru TAMURA)
【SPECIFICATIONS】
ボディサイズ:全長3800 全幅1870 全高1130mmホイールベース:2300mmトレッド:前1560 後1600mm車両重量:725kgエンジン:直列4気筒DOHCターボボア×ストローク:87.5×83.1mm総排気量:1999cc最高出力:250bhp/7000rpm最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2500rpmトランスミッション:5速MT駆動方式:RWDステアリング形式:ラック&ピニオンサスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーンブレーキ:前後ベンチレーテッドディスクタイヤサイズ(リム幅):前195/50R16(7.5J) 後225/45R17(8.0J)最高速度:216km/h車両本体価格:818万6400円
ボディサイズ:全長4120 全幅1855 全高1201mmホイールベース:2370mmトレッド:前1493 後1539mm車両重量:925kgエンジン:V型6気筒DOHCスーパーチャージャーボア×ストローク:94×83mm圧縮比:10.8総排気量:3456cc最高出力:306kW(416ps)/7000rpm最大トルク:410Nm(41.8kgm)/3000rpmトランスミッション:6速MT駆動方式:RWDステアリング形式:ラック&ピニオンサスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーンブレーキ:前後ベンチレーテッドディスクディスク径:前後332mmタイヤサイズ(リム幅):前225/40ZR18(7.5J) 後275/35ZR19(9.5J)最高速度:280km/h0-100km/h加速:3.4秒車両本体価格:1495万8000円
ボディサイズ:全長3952 全幅1836 全高1110mmホイールベース:2565mm車両重量:580kgエンジン:直列4気筒DOHCボア×ストローク:89×100mm総排気量:2488cc最高出力:305bhp最大トルク:308Nm(31.4kgm)トランスミッション:6速シーケンシャル駆動方式:RWDステアリング形式:ラック&ピニオンサスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン(プッシュロッド式)ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスクディスク径:前後295mmタイヤサイズ(リム幅):前205/40R17(7.5J) 後245/40R17(8.5J)最高速度:170mph0→60mph加速:2.8秒車両本体価格:2450万円
※GENROQ 2017年 4月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
【関連リンク】
・GENROQ2017年 4月号 電子版
※雑誌版は販売終了
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