食・歴史・自然……長崎県 上五島・小値賀の魅力に出会う(その2)

幻の焼酎の蔵元を訪問

 前回、「かっとっぽ」を食べたとき、一緒に「五つ星」という名の焼酎を飲んだとお伝えした。記事ではサラッと銘柄だけ書いてしまったが、実はこの「五つ星」はクセが強いといわれる芋焼酎のなかでもフルーティーで口当たりがよく、五島列島だけでしか飲めないという“幻の焼酎”なのだ。

 ツアー初日に続き、雨が降る新上五島町。当初、蛤浜海水浴場に行く予定だったところを、急遽、「五つ星」の蔵元、五島灘酒造を見学させていただけることになった。なお、蔵元に到着したのは朝9時。建物に一歩入ると、すでに焼酎の匂いがする。もしかして朝から飲めるの? いいのかしら私。

新上五島町有川郷にある「五つ星」の蔵元、五島灘酒造内部は焼酎のいい香りが漂っている

食・歴史・自然……長崎県 上五島・小値賀の魅力に出会う(その2)

 朝からいきなり不純な考えにとらわれてしまったが、まずは芋焼酎造りの工程から。芋焼酎を作るには、まず米の仕込みからだという。米を蒸し冷ましてから麹菌を混ぜ、その後、酵母を加えて1週間培養すると一次もろみができあがる。芋焼酎なのに米? と思ってしまうが、これがアルコール発酵の元になるのだ。その後、芋蒸機で蒸したのち粉砕したさつまいもと一次もろみを合わせて2週間発酵させ二次もろみへ。

機械で米を蒸して冷却し、麹菌を培養。その後、酵母菌を加えて培養して一次もろみを作成芋を加熱するための芋蒸機

 もろみの説明を聞いているだけで美味しそうに思え、焼酎への期待に胸が高ぶってくるが、まだだ。焼酎において大切な蒸留がある。

 五島灘酒造では通常の常圧蒸留に加え、低圧で蒸留する減圧蒸留も行なっているとのこと。常圧蒸留の場合、高温で一気に沸騰させるためアルコールに加え、原料の成分も多く混ざり、味わいとクセが強い焼酎に。一方、減圧蒸留では低い温度でゆっくり沸騰させることでアルコールの純度が高まり、スッキリとしたフルーティーな味わいの焼酎になるという。蒸留後に熟成や貯蔵を行ない焼酎ができあがる。

一次もろみと加熱して砕いた芋を混ぜ合わせ、さらに発酵させて二次もろみができる蒸留機では、もろみに蒸気を加えて加熱し沸騰させることで、焼酎の元となる蒸気を取り出す

 また、焼酎は麹の種類によっても味が変わってくるという。白麹ではスッキリしたキレのある焼酎に、黒麹では甘みや香りの強い焼酎になる。五島灘酒造では麹や蒸留法などを使い分けてさまざまな銘柄の焼酎を製造しているそうだ。なお、先の「五つ星」は、今年の分はでんぷん質が多くて甘い「黄金千貫」という品種のサツマイモを使い、白麹かつ減圧蒸留で作られている。飲むとスッキリとしていて洗練された香りだ。ただ、生産本数が2000本とあまり多くないのに加え、商標の関係で島外に出荷できない。そこが幻の焼酎と呼ばれるゆえん。もし味わいたいなら、五島列島の販売店で探すしかないのだ。

 焼酎造りと「五つ星」についてお話をうかがったあとは、いよいよ試飲タイム。この時点でまだ9時半過ぎ。世間様に申し訳ない気持ちになるが、そこは仕事。顔がほころんでいたがあくまで仕事である。まずは「五つ星」同様に減圧蒸留で作られた「五島」から。スッキリ、華やか、フルーティーの三拍子で飲みやすい。

 もう一ついただいたのが、「越鳥南枝」という銘柄。こちらはアルコール分が36%の原酒である黒ラベルと、28%の白ラベルがあるが、今回試飲したのは黒ラベルの方。こちらは「五つ星」に比べコクと風味が強く、ひと口飲むと濃い香りが一気に口の中に広がる感じだ。芋焼酎とひと言でいっても実は奥深い。蔵元見学はそんな深遠な世界に触れられたひとときであった。

五島灘酒造の焼酎のラインアップ焼酎造りについて説明してくださった杜氏の新西利秋さん銘柄ごとに個性のある芋焼酎を試飲。朝から飲むお酒は美味しかった
五島灘酒造

所在地:長崎県南松浦郡新上五島町有川郷1394-1TEL:0959-42-0002Webサイト:五島灘酒造