糖尿病で病院に通うと、毎回のように「食事に気をつけていますか?」と聞かれます。気をつけると言われても、何を食べればいいかと考えると迷ってしまうかもしれません。ここでは糖尿病の治療のために食事で気を付けることを説明します。
目次
1. 摂取カロリー2. 炭水化物の摂取量3. 糖尿病の食事療法で食事の脂肪は減らすべきか4. 糖尿病の食事療法で禁酒は必要か5. その他の摂取すべき栄養6. 糖尿病の献立の例7. 栄養バランスの管理を楽にする方法8. 食事療法を続けるコツ糖尿病と診断されるとこんなことになりがちです。
園田さんは健診で異常値を指摘され、病院に行って糖尿病の診断を受けました。「生活を変えてください」と言われたのですが、何をすればいいのかよくわかりません。やせたほうがいいのでしょうか?甘いものを食べてはいけないのでしょうか?
1. 摂取カロリー
糖尿病の食事療法では、食事のカロリーを適切な範囲に制限することで、血糖値が上がりすぎないようにします。
身体が大きい人はカロリーをたくさん消費します。また、身体を使う労働をしている人も多めのカロリーが必要です。そこで、1日に摂るべきカロリーは身長と労働量をもとに計算します。
まず、身長に対して標準的とされる理想体重を計算します。理想体重(kg)は、身長(m)×身長(m)×22です。また、65歳以上の人であればすこしゆるく考えるほうが良いとされており、身長(m)×身長(m)×22-25とします。
次に、労働の強さによって決まった数字を理想体重に掛けると、1日あたりのカロリーになります。
例として計算してみましょう。
身長160cmでデスクワークをしている人なら、理想体重は1.6×1.6×22=56.3kgです。1日のカロリーはこれに25から30を掛けて、およそ1400kcal(キロカロリー)から1700kcalとなります(十の位で四捨五入しています)。
身長と労働の強さを当てはめると同じように計算できます。例としていくつかの組み合わせを計算します。
この数字を目安として食事療法を行うと良いですが、病気の程度や合併症の有無などで目標が異なる場合があります。医療機関で医師や管理栄養士の話を聞いてみるともっと理解が深まります。
2. 炭水化物の摂取量
糖尿病という名前を聞くと、「甘いものはよくないのかな」と思えるかもしれません。確かに糖類はカロリーが高く、食べ過ぎてしまいやすいので、ほどほどにしておいたほうが摂取カロリーは守りやすくなります。糖類は炭水化物の一種で、炭水化物が多いごはんやパンにも同様のことが言えます。
しかし炭水化物は身体に必要な栄養素なので、糖尿病の食事療法中であっても適量を摂取することが大切です。
1日の総摂取カロリーの50-60%を炭水化物で摂ることが良いと考えられています。1日の摂取カロリーを1600kcalとして計算すると、うち800kcalから960kcalを炭水化物で摂ることになります。これは炭水化物の量に換算すると200gから240gに当たります。
ふだん食べているものにどれぐらいの炭水化物が含まれているのか、栄養成分表示などを見て確かめてください。
炭水化物を摂ると血糖値が上がります。それなら、血糖値を下げるには炭水化物を摂らないほうがいいように思えます。なぜ「減らすほどよい」とは言えないのでしょうか?実は、炭水化物も適量を摂ったほうが長期的には効果があるのです。
炭水化物は体内で分解されてグルコース(ブドウ糖)になります。グルコースは、生きるために必要なエネルギー源です。グルコースがないと、身体はエネルギーが足りなくなって、生命維持のために必要な働きができなくなってしまうので、筋肉に蓄えられているタンパク質を使ってグルコースを作ろうとするのです。
このため、炭水化物が少ない食事を続けると身体のタンパク質が消費され、筋肉が減ってしまいます。筋肉が減ると、筋力が落ちるだけでなく、基礎代謝が落ちてエネルギーを消費しにくい身体になっていきます。
医学的にまだ明確ではない部分も多いですが、炭水化物の適量は総摂取カロリーの50-60%が目安です。残り40-50%はタンパク質や脂質から摂ります。
最近では、グリセミック指数(GI)という概念も重要なのではないかと考えられています。
GIは、炭水化物50gを含む食品を食べたときに、どの程度血糖値が上がるのかを食品ごとに比較した数値です。ブドウ糖の血糖値を上げる力を100として数値を計算します。GIが高い食品ほど、食べてすぐに血糖値が上がるということです。
主食で比べると表のようになります。
GI | 食品の例 |
---|---|
高い | パン、白米 |
中程度 | うどん |
低い | パスタ、そば、玄米 |
※GIは測定の仕方によっても多少のずれがあります。
GIを重視する立場からは、糖尿病の食事療法には、より血糖値を上げにくいそばや玄米が望ましいと考えられます。お菓子などの甘いものはGIが高いので要注意ということになります。ただし、このような考え方については専門家の意見が一致しない点もあります。
カロリーと炭水化物を適量に収めることができていれば、その中で低GIの食品を選ぶことも考えられます。
3. 糖尿病の食事療法で食事の脂肪は減らすべきか
肥満だと糖尿病になりやすいというイメージからは、脂肪の多い食事も糖尿病に悪そうだと思えるかもしれません。確かに、脂肪の取り過ぎはよくありません。しかし、単に脂肪を摂らないようにするだけでは実は不十分です。
オメガ3脂肪酸と呼ばれる物質(EPAやDHAなど)は、魚の脂肪に多く含まれていて、糖尿病管理としてメリットが有るかは現状では不明ですが、中性脂肪を下げる効果があると言われています。中性脂肪を下げるときに使うエパデール®という薬があります。これはオメガ3脂肪酸のEPA(イコサペント酸)が主成分の薬です。血中の脂肪を減らすために脂肪酸を飲むという行為は一見矛盾しているように見えますが、実際にこの治療で中性脂肪が下がります。
また、体内で合成されるコレステロールの量に比べて、食事から取り込まれるコレステロールはわずかです。そのため、食事中のコレステロールを厳しく制限しても、血液中のコレステロールにそのまま反映されるわけではありません。
このように、脂肪や脂質を減らすことが糖尿病治療に直結するとは限りません。摂取カロリーのうち20-30%程度を脂質から摂ることが目安とされていますが、それを大幅に下回るような制限は必要ありません。
4. 糖尿病の食事療法で禁酒は必要か
糖尿病の治療中に飲酒を制限するべきかは研究者の間でも結論が出ていません。ただし、飲み過ぎで起こる病気はアルコール性肝障害などほかにもあるため、糖尿病治療以外の面も総合して考えれば、飲酒はほどほどが良いと言えます。目安としては1日に25gほどのアルコール摂取を上限と考えてください。25gのアルコールというと、日本酒で1合、焼酎で0.6合、ビールで中瓶1本ほどです。また、お酒の中には炭水化物を含むものがありますので、どのタイプのアルコールを摂取するのかも気をつけるようにすると良いです。
5. その他の摂取すべき栄養
食物繊維を摂ることで血糖値が下がることがわかっています。目安としては1日に20g以上の食物繊維の摂取となります。また、ビタミンも糖尿病にどの体で有効化は不明ですが、栄養管理上重要です。糖尿病治療にかかわらず、以前から食事で摂取していた栄養素が不足しないよう注意が必要です。ただしサプリメントや栄養ドリンクを大量に飲むのは危険ですのでやめてください。
コーヒーが血糖値を下げるのではないかという意見もありますが、疑問の声もあり、今の時点ではコーヒーにはあまり期待しないほうがいいでしょう。
6. 糖尿病の献立の例
園田さんは食事療法の説明を受けて、カロリーと炭水化物を減らしてみようと思ったのですが、いざ実行しようとしてみて、何をどれぐらい食べれば適量になるのかわからなくなってしまいました。適量の食事というのは、メニューで言うとどんな内容になるのでしょうか?
デスクワークをしている人が1日に1800kcalを摂ることを考えてみましょう。
炭水化物で摂取するカロリーは50-60%ですので1000kcal(炭水化物250g)とします。
食品交換表を使って計算すると、1日の食事の例として、
これでおおよそバランスの取れた1800kcalの食事になります。これは単なる一例ですので、是非専門家である管理栄養士に相談してみてください。
7. 栄養バランスの管理を楽にする方法
一例を挙げましたが、朝昼晩に何を食べるか毎日計算して考えるのは大変です。茶碗1杯分の白米にどのくらいの炭水化物が含まれているのか、正確に知っている人は少ないでしょう。1日分の献立を考えるために、1日に使う食品すべての栄養成分を知ろうとするのは現実的とは言えません。
すべてを計算するのはとても大変なことですが、実際の食事療法は楽にする方法があります。キーポイントは3つです。
食事をコントロールするために、日本糖尿病学会が作成している「糖尿病食事療法のための食品交換表」というものがあります。通称「食品交換表」と呼ばれています。
食品交換表には、同じタイプの食品でカロリーが同じになる量を書いてあります。たとえば、30gの食パンと60gのそばはどちらもおおよそ80kcalです。これを参考にすれば、身長と労働量から計算したカロリーが食べ物で言うとどれぐらいの量になるか把握することが出来ます。
さらに、食品交換表には炭水化物の多い食品・タンパク質の多い食品・脂肪の多い食品という分類が載っています。
この情報を使えば、まずカロリーから1日の食品の量を計算して、その中でも炭水化物:タンパク質:脂肪の割合が適切になるように、同じカロリーの食品に交換して食事を組み立てていくことができるのです。
食品交換表は、カロリーと炭水化物:タンパク質:脂肪の割合をコントロールするために便利に使えます。書店やショッピングサイトで買えますので、ぜひ手に入れて活用してください。
炭水化物の量で言えば、10g以下まで考える必要はありません。あまり正確に計算しようとすると大変すぎて長続きしません。
白米100gには40g程度の炭水化物が含まれます。しかし、炊き方や品質次第では、炭水化物含有量が35gだったり45gだったりすることもあります。細かく計算しても、毎食10g程度の誤差はあるものです。全体として目標量を大幅に超えない、つまり食べ過ぎないことを最低限として、続けることを大事にしましょう。
栄養管理のためにいろいろな情報が役立てられます。
しかし、食べ物は複雑です。考えることが多すぎて、どこから手を付ければいいのかわからなくなってしまうことはよくあります。数字がたくさん出てきて計算がわからなくなることもあります。がんばって毎日食事を工夫していても、果たして今自分がやっていることは正しいのだろうかと不安になることもあるでしょう。
そんなときに助けになってくれるのが管理栄養士です。管理栄養士は栄養コントロールの専門家です。食事で迷ったら、管理栄養士に相談して、栄養指導を受けてみましょう。糖尿病診療ガイドライン2019でも管理栄養士による指導は有効であるとされています。また、できるだけ早めから指導を受けるようにしたり、複数回指導を受けたりすることでその効果は高まります。
8. 食事療法を続けるコツ
ここまで食事を改善する方法を紹介してきました。効果的な方法はありますが、実践するにはもう一歩踏み出す必要があります。つまり糖尿病を治療したい人自身が自分の行動を変えなければいけません。
ついつい食べ過ぎることやバランスの悪い食べ方をすることを避けて、食事療法を長く続けるためには何に気を付ければいいでしょうか。ポイントを挙げます。
もうひとつ大事なことは、「方法にとらわれない」ということです。どうしても会食を避けられないことや、ついつい羽目をはずしてしまうことは誰にでもあります。そんなときは「たまには仕方ない、また頑張ろう」と考えるのが前向きな姿勢です。一度失敗したと思ってもやり方を変えるなど工夫して続けることはできます。
食べ過ぎてしまったら、週のうち残りの6日間で食べる量を少しずつ減らして取り戻す方法もあります。長く続けることを第一に、細かいやり方は柔軟に考えてください。
食事摂取を適切に行うことで糖尿病や心血管疾患による死亡率が下がるというデータが海外にあります。そのデータでは、精製しない穀類や果物、ナッツを多めに摂取して、ショ糖の多く含まれるものや赤肉を少なくすると良いとされています。また、国内のデータでも食物線維やタンパク質を先に摂ること血糖値の上昇をなだらかにできると考えられています。
依然として確定的ではない部分も多いですが、食事療法を続けることで病気のコントロールが良好になる可能性は高いです。一方で、厳しすぎるほどの食事療法を続けられる人は多くないかもしれません。医療者の意見を取り入れながら、長続きするやり方を自分なりにアレンジしていくと最も良い結果が期待できるかもしれません。