ASCII.jp 「雪だるま」の作り方をインターネットアーカイブから掘り出す

雪だるまの作り方/新宿御苑ラ・ボエムにて

金曜の午後くらいからといっていたが、チラチラと白いモノが落ちてきたのは土曜の朝からだった。

雪が降ると、なにか特別な気分になってしまうのはなぜだろう。気温が下がるから、本能的に体を動かして脂肪を燃焼させようとするからなのか? ソワソワした感じになる。

私は長岡出身なので、雪なんてのは冬になれば必然的に身の回りを埋め尽くすものだよ、という感覚がある。それでもだ。

11月のある日、中学校の国語の時間とかに、退屈した生徒1人がなにげなく外を見やった瞬間、「あっ、雪だ!」と叫ぶ。

すると、40人のクラス全員がワーッとざわめいて、授業なんかほっぽり出して窓のほうに集まる。教卓に取り残された先生も、教科書とチョークを持ったまま、やっぱり窓まで来て、「これは、積もらんだろー」などと評論する。

新潟の長岡というところは、ひと冬を通じて雪がまったく降らないということは絶対にない地域である。お正月に積雪のない年もあるが、1月の下旬には1メートルくらいの積雪になることも少なくない。

毎年、かならずやってくるものなのに、ふだん悪ガキな奴までもが、その白いモノを神妙な面持ちで見やるのだ。

教室に「だるまストーブ」が設置され、毎朝、当番が石炭を運ぶようになると雪もめずらしくなくなる。

まるで街全体が、「静粛に!」と注意でもされたかのように黙り、いつの間にか、建物の屋根から庭の木々の枝の一本一本から家の前に置き忘れられた三輪車から牛乳箱から、すべて真っ白になる。太陽光は遮られていても、まっ白な雪が間接照明のしくみで柔らかい天然のフットライトとなる。

それは、宇宙のすべての空間を埋め尽くしていると考えられていた「エーテル」という仮想物質を思わせる(※)。

昭和38年、小学校に上がる年に大雪が降った。

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どれだけ降った記録になっているのか分からないが、ひと晩で、我が家の1階がすべて雪で埋まってしまった。

朝、起きたら玄関がまっ暗になっていて、家のすぐ外側を板塀で囲んだ「雪がこい」もなにも、すべて埋め尽くす勢いで雪が積もったのだ。1階が雪で埋まってしまっているから、2階の子供部屋の窓から出入りすることになる。

雪の重さが家にかかってくるからだろう、玄関の近くのドアが子供の力では開けられなくなったのを覚えている。

東京で降る雪は、違ったニュアンスがある。

ちゃんと積もるのは何年に1度だから、ふだん見知った風景が薄く白く覆われ、まさに雪化粧というのがピッタリの表現となる。

そして、雪国ではまったく考えられないような、かき集められるだけの雪をなんとか寄せ集めて作った、中途半端な形と大きさの「雪だるま」が、あちこちに出現する。

たいていは、翌日の午後までにその体をなさなくなり、わずかな白さと土とほこりが入り混じったあやふやな物体となってしまうのだが。

本当の雪だるまの作り方はこうだ。

まず、そのあたりの雪を両手でザックリとすくって野球のボールくらいの雪玉を作る。それを新雪の上に放りだしてやる(そう、雪だるまは新雪が似合うのだ)。

それを、ていねいに掴むように転がすようにしてやって、ドッヂボールくらいの大きさにする。ここまできたら、もうこっちのものである。できるだけ腰を低くして、ひたすら押してやるだけだ。回転モーメントが働き、まさに「雪だるま式」に、雪玉は大きくなっていく。これが、“雪だるまの醍醐味”というべきか、転がす人の表情もゆるんでくる。右に左に、滑らかだった雪の表面にゴロゴロとあと(シュプール?)を残していく感じもいい。最後は、雪だるまの建設予定位置まで転がしてやる。

こうして“胴体”ができたら、同じように“頭”も作り(やや小さめに)“胴体”の上にのせてやる。雪だるまの形になったら、小さなシャベルのようなもので表面をパンパンと叩いてやるとよい。これで、雪だるまの表面は硬くなり、融けにくくなる。技術的には、「泥だんご」とまではいかないがある程度のツルツル状態まで持っていくこともできる。

あとは“炭”で顔を作るなり“バケツの帽子”をのせてやるなりしてやればよい。

ツルツルで思い出したのは、10年以上前、御茶ノ水のある大学の中庭だったかに、雪だるまではなくて、ある題材の「雪の芸術」が作られていたという話がある。雪は、一度融けたのを再度固めてやると、気温が下がったときにカチンコチンに硬くなる。男子学生が何度も固めたのだろう。やや問題のある題材なのだが、もう誰にも簡単には手が出せないような状態になっていたそうだ。

ところで、外を見るとチラチラときていたはずの雪が、ちっとも降っていない。

天気予報のウソツキ!

※エーテル:光や電磁波を伝える物質として1678年にホイヘンスが設定した仮想物質。化学の世界では有機化合物のエーテルであり、真空を認めないギリシアの自然観にまで遡るともいわれるが、みなさんが会社や自宅でPCをネットワークに繋いでいるイーサネット(Ethernet)の“Ether”は、このエーテルの英語読みです。