これって更年期症状⁉ バセドウ病? 甲状腺機能亢進症の見分け方

こんにちは。医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。

更年期になると、急に動悸がしたり、発汗したりする症状が頻発します。「更年期症状かな?」と思って放置していたら、実は治療が必要な甲状腺機能亢進症、バセドウ病だったということも珍しくありません。

歌手の絢香さんが発症したことで有名ですが、甲状腺機能亢進症、バセドウ病は、更年期女性にも起こりうるものです。

更年期症状と見分けが付きづらい、甲状腺機能亢進症、バセドウ病についてお話ししましょう。

目次

  • 5.その他の甲状腺機能亢進症
  • 6.更年期症状と甲状腺機能亢進症の見分け方
  • 7.バセドウ病の場合の治療法
  • 8.更年期症状の場合
  • 9.まとめ
  • 1.更年期症状と甲状腺機能亢進症

    40歳の女性が、急に胸がドキドキして発汗し始めて、疲れやすくなった。こんな症状があると、「あら、これって更年期症状かな!?」と考えがちです。確かに、更年期にも、自律神経の失調から、動悸や発汗が起こったり、以前よりも疲れを感じやすくなります。

    もちろん、更年期症状の可能性もありますが、同時に起こりやすい甲状腺機能亢進症ではないか、確かめる必要があります。血液検査や超音波検査などで確定診断ができます。

    2.甲状腺とは何か?

    甲状腺は、首筋の喉ぼとけのやや下あたりに左右にまたがるように位置しており、体にとって重要な役割を果たすホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌しています。

    甲状腺ホルモンは、代謝を司るホルモンです。人が元気に活動するために必要なエネルギーを作り、古い細胞を壊し新しい細胞にリニューアルして新陳代謝を高めます。

    ですから、甲状腺ホルモンが不足して代謝が低下すると、体の様々な機能も低下してしまいます。以前に、甲状腺機能低下症についてお伝えしました。

    ▼意外と少なくない女性の“甲状腺機能低下症”のメカニズム

    https://wellmethod.jp/hypothyroidism/

    3.甲状腺機能亢進症は、いつもマラソン状態

    「亢進」という言葉の意味は、高ぶることです。つまり甲状腺機能亢進症とは、甲状腺ホルモンの代謝が上がって、たくさんホルモンが出ている状況ですね。

    「代謝アップ」と聞くと、むしろ良いことのように思いがちです。でも、甲状腺ホルモンが体に溢れてしまうと、代謝が高まりすぎて、いつもマラソンをしているような状態になります。

    マラソンをすると、エネルギーが消費されます。その分、細胞にたくさんの酸素と栄養が必要になるので、血流を促すために心臓がたくさん仕事をして脈拍を高めます。エネルギー産生が高まると発汗が起こります。冷え性が治り、暑がりになります。エネルギッシュで活発になりますが、体が休まることがありません。心はソワソワ、イライラして落ち着かなくなり、過活動気味になります。

    寝ていても24時間マラソンをしているような状態になると、不眠にもなります。エネルギーが常に消費され、体重が減っていきます。食欲も増しますが、食べても体重が減っていきます。これは嬉しいことのように思うかもしれませんが、体には大きな負担になります。

    顔つきや目つきがきつくなったり、末期になると、3割程度は、眼が出てくる眼球突出となります。目が大きくなって喜ぶ方もいますが、そのうち、白目が剥き出しになってきます。

    これって更年期症状⁉ バセドウ病? 甲状腺機能亢進症の見分け方

    甲状腺が大きくなると、喉元が腫れて太くなってきます。目立たない場合もあります。

    4.バセドウ病とは?

    よく耳にする「バセドウ病」とは、甲状腺機能亢進症の一種です。甲状腺機能が高まる疾患のうち、代表的なものがバセドウ病です。

    バセドウ病は、甲状腺の特異性な自己免疫疾患のひとつで、比較的人口が多く、1000人中2~6人。そのうち、女性が男性より5倍と多いのが特徴です。20〜40代に好発します。

    自己免疫疾患とは、免疫が自身の組織を攻撃する自己抗体を作ります。自分で自分を攻撃して、組織の機能低下が起こるのが通常です。

    ところが、バセドウ病の場合は、自己抗体によって甲状腺が刺激される結果、甲状腺ホルモンが過剰につくられ、逆に機能が亢進するという珍しいものです。

    甲状腺の自己免疫疾患には、機能低下を起こすものがあり、「橋本病」がそれに当たります。橋本病の場合は、自己抗体が甲状腺の細胞を攻撃して、細胞が壊れてしまうため、甲状腺ホルモンが作れなくなり機能が低下します。しかし、発症初期には、壊れた細胞から甲状腺ホルモンが溢れ、一時的に機能が亢進する場合もあります。

    4-1.バセドウ病の診断

    バセドウ病の診断は、症状と検査によって行われます。

    a)症状(臨床所見)

    1.頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見2.びまん性甲状腺腫大3.眼球突出または特有の眼症状

    b)検査所見

    1.甲状腺ホルモン:遊離T4、遊離T3のいずれか一方または両方高値2.甲状腺刺激ホルモン:TSH低値(0.1μU/ml以下)3.自己抗体:抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性、または甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性4.放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値、シンチグラフィでびまん性の所見

    バセドウ病の確定診断・・・a)の1つ以上に加えて、b)の4つを有するもの確からしいバセドウ病・・・a)の1つ以上に加えて、b)の1、2、3を有するものバセドウ病の疑い・・・a)の1つ以上に加えて、b)の1と2を有し、遊離T4、遊離T3高値が3ヶ月以上続くもの

    5.その他の甲状腺機能亢進症

    バセドウ病以外にも、甲状腺機能が亢進する疾患があります。

    ・プランマー病

    高齢者に多く、若年者にはまれ。甲状腺にたくさんの結節という塊ができ、その結節から過剰な甲状腺ホルモンが分泌されることで甲状腺機能亢進状態となります。一般的な甲状腺結節の場合は、甲状腺ホルモンの過剰分泌はありません。手術による腫瘍切除が基本となります。大半は良性腫瘍で、甲状腺がんなどの悪性腫瘍は、極めてまれ。

    ・甲状腺炎

    ウイルス性などの原因で起こる甲状腺の炎症。ウイルス感染後に発症しやすい亜急性甲状腺炎。産後に発症する自己免疫性の甲状腺炎である無痛性リンパ球性甲状腺炎などがある。

    その他、薬剤性で起こる場合、甲状腺を刺激するホルモンを分泌する下垂体の腫瘍によって亢進症が起こる場合もありますが、頻度は稀です。

    6.更年期症状と甲状腺機能亢進症の見分け方

    6-1.更年期症状と甲状腺機能亢進症の共通点

    更年期症状と甲状腺機能亢進症に共通する症状は色々とあります。

    ・動悸、息切れ・ほてり・発汗・喉のつかえ感・疲れやすい・イライラ感・皮膚の乾燥・脱毛の増加・口の渇き・血圧上昇・月経不順

    甲状腺機能の異常が原因で月経が乱れることもあります。甲状腺機能低下症の場合は、どちらかというとメンタルが落ち込み抑うつ的になりますが、甲状腺機能亢進症の場合はそれはありません。

    6-2.更年期症状と甲状腺機能亢進症を見分けるポイント

    更年期症状の場合、自律神経の失調症状で動悸などが起こっていますので、基礎代謝が上がることはありません。どちらかというと年齢と共に代謝は下がっていきますので、同じ生活をしていても体重は増加傾向になります。

    甲状腺機能亢進症であれば、同じ生活をして特にダイエットなどしていなくても体重が減ります。この時に「ラッキー!」と思わず、減るからには減るなりの理由があると考えてください。

    また、上記の症状に加えて、指が細かく震える症状や首元の腫れがあれば、更年期症状よりも、甲状腺機能亢進症を疑いたくなります。

    メンタルは、更年期症状の場合、どちらかというと活力も低下しやすいですが、甲状腺機能亢進症の場合はどちらかというと活発、過活動気味になることが一般的です。身体的にはずっとマラソンをしているような状態になるため、疲労感が付き纏います。

    血液検査を行えば、甲状腺ホルモンや自己抗体の検出で確定診断ができます。特別な検査を行っていない段階でも、一般的な血液検査で、更年期から閉経期に増えるはずのコレステロールや中性脂肪がむしろ減ったり、肝機能の数値が低下するなど、代謝が上がることで年齢に伴って悪化するはずの数値が改善しているかに見えることがあります。特別に生活習慣を改善したわけでもないのに、こうした兆候があれば注意が必要です。

    7.バセドウ病の場合の治療法

    甲状腺機能亢進症のうち、頻度の高いバセドウ病の場合の治療は、主に内服治療です。抗甲状腺剤を投与します。甲状腺ホルモンを正常にコントロールすれば、通常通りの生活を送ることができます。

    副作用で内服ができない場合、早期の治癒を希望する場合、甲状腺腫が大きな場合は手術やアイソトープ治療が勧められる場合もあります。

    バセドウ病の場合は、内服治療を継続することで寛解することも珍しくありません。放置することで心臓を含めた全身に負担が持続し、心不全になることもありますので、受診の上確定診断を受けましょう。

    更年期症状を疑って婦人科を受診した場合も、通常は、甲状腺疾患と鑑別をするために甲状腺ホルモンを測定します。必要な場合は、内科、内分泌内科、甲状腺専門医を紹介されます。更年期症状と甲状腺疾患を合併している場合もあり、その場合は婦人科と内科の連携した治療が必要になります。

    8.更年期症状の場合

    甲状腺機能亢進症ではなく、更年期症状だった場合は、婦人科での治療となります。

    治療の選択肢は、ホルモン補充療法(HRT)、漢方治療、エクオールの内服。これらのうち症状やニーズにあった治療を単独で、もしくは組み合わせて勧められることが一般的です。

    自宅での自己管理として、ゆらぎ世代の女性の味方になるのが、食品として摂取できるエクオールです。更年期から閉経後にも、人生百年時代の女性の活躍を応援してくれるでしょう。

    9.まとめ

    更年期症状と甲状腺機能亢進症、バセドウ病の症状は見分けがつきにくいものです。更年期女性に起こりやすいのが甲状腺疾患ですから、自己判断で「更年期症状」と決めつけずに確定診断ではっきりとさせましょう。

    その上で、安心して治療法や自己管理の方法を選ぶことができますよ。

    この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

    医師

    桐村 里紗

    総合監修医

    内科医・認定産業医tenrai株式会社代表取締役医師日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

    愛媛大学医学部医学科卒。皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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