テレビCMや雑誌の表紙などでアスリートの肉体美を見かけるにつけ、「自分も割れた腹筋を手に入れたい」と夢想する、なんて人はいないだろうか。
しかし、彼ら彼女らはいわば「本職」。日々の仕事に追われ、健康診断の悪い結果に目をつぶり、つい食べすぎ飲みすぎ、運動不足の自分には縁がない――そんなふうに思ってしまうかもしれない。
ここで、私は伝えたい。「ふつうの人」でも割れた腹筋は手に入る、と。
いや、「ふつう」でなくてもいい。今、太っている人でも、アスリートのような肉体を実現することはできる。他ならぬこの私がその実例だ。
私はかつて体重115kg・体脂肪率33%の高度肥満であり、そこから現在の体重74kg・体脂肪率8.9%まで体を絞った経験の持ち主だ。今、私の腹は腹筋の線がしっかりと確認できるほどになっている。
私が合計40kg以上の減量に成功し、割れた腹筋を手に入れられたのは、医療記者として取材してきた、科学的な根拠に基づいたダイエットをしたからだ。
2017年からの4年間、私は医療を専門にする記者として、「人はなぜ太るのか」「人はどうすればやせるのか」を取材してきた。数々の専門家に話を聞き、論文を読み漁り、そうして得た正しい知識に基づいて、自分の体を使って実践したのである。
その結果、肥満はすっかり解消。健康診断の結果もオールAとなり、見た目も大きく若返った。
しかし、勘違いしてほしくないのは、私は特別ではないということだ。極端な話、これから説明する方法を実践すれば、誰でもやせることができる。自分には無理だと諦める前に、ぜひ一度、取り組んでみていただきたい。
私の場合、体脂肪率12%あたりから、腹筋の線が見え始めた。「割れた腹筋を手に入れる」を目標にしたのは、体脂肪率18%前後になった頃だ。しかし、それ以前もそれ以降も、したことは変わらない。「115kgから40kg減量した」と言うとすごいことをしたようだが、方法はずっと同じだ。
朽木誠一郎『医療記者のダイエット 最新科学を武器に40キロやせた』(KADOKAWA)であれば、115kgでは数字が大きすぎて参考になりにくいと思うので、2020年の1月、体重78kg・体脂肪率18%だった時点から話を始めよう。
これは最大体重時よりは当然、やせているが、服を脱げば下腹がちょっとぽっこりしている状態だ。この時点で、私の脂肪量は約14kg。ひとまずの目標として体脂肪率12%を定めると、脂肪だけ5kg落とすことができれば達成できる計算になる。
では、脂肪を5kg落とすというのは、科学的にはどのようなことか。
医師らが治療の参考にする『肥満症診療ガイドライン2016』には、減量の結果が「食事によるエネルギー摂取と身体活動などのエネルギー消費のバランス」に左右されることが記されている。
平たく言えば、摂取カロリー<消費カロリーの状態を維持すれば人はやせるということだ。
人間の体がクルマだとすると、どれくらいのガソリンを入れて、どれくらい使うか、というシンプルな考え方だ。近年よく言われるように、食事で摂取した栄養素がすべて同等に身体活動で消費されるわけではないが、原理としてはこうなる。
つまり、入れるガソリンの量(食事)を少なくし、使うガソリンの量(運動)を多くすれば、予備タンクに貯蔵されているガソリン(脂肪)が消費されていく。これが「やせる」ということだ。太っている人は予備タンクに大量のガソリンが貯蔵されている状態、と言い換えることができる。
ここで、予備タンク、つまり5kgの脂肪を落とすために消費するべきエネルギーをあらためて計算してみよう。
脂肪細胞は2割の水分を含むので、5kgの脂肪には残りの8割、つまり4kgの脂質が存在する。1gの脂質のカロリーは9kcalだから、消費したいエネルギーは理論上、3万6000kcalとなる。
目標達成までの期間を4カ月(120日)に設定すると、1日あたり300kcalずつ摂取カロリーよりも消費カロリーが多くなるようにすれば、体についた5kgの脂肪を使い切ることができるのだ。
そう、たった300kcal。これを毎日、セーブし続けさえすれば、その「ちょっとぽっこりした下腹」は消滅するのである。