[Ragripa West] The second Keio boy. Masasaki Sugiyama [Osaka Toin/SH]

2021年度の大阪桐蔭を引っ張ったスクラムハーフの杉山雅咲。ラグビー部2人目の慶應進学者になる

 まもなく、日吉の住人になる。 杉山雅咲(まさき)はほおを緩める。「勉強もラグビーも全力で取り組みます」 大阪桐蔭のスクラムハーフは、慶應義塾に迎えられた。夕日に照らされた顔は赤く上気する。太い眉は意志の強さを示す。 志望理由を話す。「高校と同じで文武両道を目指せます」 早稲田と並ぶ日本の2大私立。そのラグビーも好きだ。「体を張って、タックルは刺さります。泥臭い部分がありながら、スマートです」 創部は1899年(明治32)。120年以上の歴史を誇る日本ラグビーのルーツ校だ。「プレッシャーはありますが、責任感を持ってできるよろこびもあります」 学部は総合政策。AO入試で合格した。経歴書や志望理由書の提出と面接をクリアする。経歴書には「高校日本代表候補」を入れ、志望理由書は入学後に取り組みたい「教育」に焦点を当てて書いた。「すべての子どもが家庭環境やその境遇に関係なく、十分な教育を受けられるような世の中にしたいです。教育があって、今の自分があります。小中高の先生に人間性を磨いてもらいながら、勉強を教えてもらいました」 提出書類をより精緻にするために、フィールドワークを重ねた。東大阪の自宅近くにあるフリースクールをたずねる。不登校の生徒らを受け入れる教育施設での現状を見聞きする。養護施設にも足を運んだ。「練習は早く終わらせてもらいました」 監督の綾部正史は柔軟である。 クラブ側からは新3年生になる永山淳が中心となってサポートをしてくれた。「ジュンさんには特にお世話になりました。リモートで多い時には週2回、1回1時間以上、アドバイスをいだだきました」 永山は國學院久我山出身のセンター。総合政策学部の先輩にもなる。 11月末、合格の判定を受け取る。大阪桐蔭のラグビー部から黒黄(こっこう)ジャージーに挑めるのは2人目。ロックの中矢健太に次ぎ2年連続になる。「中矢さんとは小さい時から一緒にラグビーをやっています。向こうにいてくれるのは心強いです」 2人はOTJラグビースクールのひとつ違い。関係は近い。 春夏の甲子園で優勝8回を誇る野球部から慶應に進んだのは福井章吾。捕手兼主将は今春、トヨタ自動車に入社する。監督の西谷浩一から綾部は指導のヒントを得ている。 杉山は幼稚園から競技を始めた。「兄の影響でした」 長兄は優平。6つ上で東芝ブレーブルーパス東京のスクラムハーフだ。杉山はOTJ、石切中、大阪桐蔭とその背中を負った。「長兄は目標です。試合中、すごくしゃべります。グラウンドの外からでも聞こえます。リーダシップがあって、格好いいです」 慶應を受験するかどうかで悩んでいる時も背中を押してくれた。「いいと思うで。チャレンジしてみ」 長兄は筑波大を卒業している。 プレースタイルはやはり似る。杉山は自身の特徴を170センチ、75キロの体を使った「仕掛け」と話すが、長兄もスペースに対して走り込み、ラックサイドを速さで崩す。 2人を見た綾部は比較を口にする「よく似てはいるけど、マサキの方がわずかに芯が強い気がします。優平はキャプテンでチーム優先にしたところがあり、自分に手が回らない状況でした。それもあるでしょう」 保健・体育の教員でもあるだけに、兄弟で優劣をつけることは教育者として好まない。 綾部は杉山に愛がある。「マサキは練習を黙々とやります。そんな時でもたまに冗談を言います。それがおもしろい。そのギャップを見ていると、みんな好きになりますね、マサキのことを」 集中を緩めるのは漫画だ。戦いのシーンが人気の『NARUTO -ナルト- 』などを好む。「個性のあるキャラが多いです。高校と一緒? そうですね。元気をもらっています」 愛読書は70巻以上あるので、多すぎて寮には持ち込めない。残念である。 杉山家は4兄弟。姉、優平、そして次兄の郁泉(いくみ)と続く。次兄は日本航空石川から専大に進んだ。この春、就職する。男3人はみなスクラムハーフだ。 杉山の最後の全国、101回大会は3回戦で敗退した。元日、京都成章に8-15だった。「悔しい気持ちはありますが、純粋に楽しかった。最高の仲間と試合ができました」 山田莞大(かんた)は控えのスクラムハーフ。同時に試合に出ることはなかった。「練習や試合が終わったら、こうした方がええで、と言い合いました」 普通、同じ位置の人間とは話さない。「ライバルだけど、仲間です。カンタのおかげで切磋琢磨できました」 山田は東海大に進む。 杉山は生駒山中での3年間を振り返る。緑や黄や赤など木々に季節ごとに彩られた。「大阪桐蔭に入って、ほんまによかったです。先生方も距離が近くて、なんでも話ができました。楽しい雰囲気でした」 慶應の新人集合日は今月26日。月が変われば本格的にチームに合流する。「僕は生まれてからずっと大阪でした。でも標準語にはすぐに対応できると思います」 口は半月に開き、目じりは下がる。前途洋々の春はすぐそこまで来ている。(文:鎮 勝也)

最終更新:ラグビーリパブリック(ラグビーマガジン)

【ラグリパWest】2人目の慶應ボーイ。杉山雅咲 [大阪桐蔭/SH]