いじめ・アダルトサイト…「問題だらけ」の学校配布タブレット、どう対策すべき?

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    いじめ・アダルトサイト…「問題だらけ」の学校配布タブレット、どう対策すべき?

    「GIGAスクール構想」に基づいて公立小中学校に学習用タブレット端末の1人1台配布が広がっている。同時に運用上のトラブルやセキュリティ被害などもニュースなどで報告され始めている。新しい技術や制度導入で初期不良や一定の運用トラブルは予想されるものだが、過去の教訓や知見がほとんど生かされず、教育現場がここまで混乱してしまうのは、構造的な問題があるのではないだろうか。

    フリーランスライター 中尾真二

    フリーランスライター 中尾真二

    フリーランスライター、エディター。アスキーの書籍編集から、オライリー・ジャパンを経て、翻訳や執筆、取材などを紙、Webを問わずこなす。IT系が多いが、たまに自動車関連の媒体で執筆することもある。インターネット(とは言わなかったが)はUUCPのころから使っている。

    <目次>
    1. 学校ICTが抱える構造的な問題
    2. 対策の考え方やガイドライン
    3. ガイダンスやマニュアルの限界
    4. アカウント情報:小学生に複雑なパスワードは難しいのか?
    5. フィルター設定:YouTube一律禁止は有効か?
    6. なりすまし対策:「子どものパスワードは親にも共有」の弊害

    学校ICTが抱える構造的な問題

     東京新聞(2021年10月17日付)、読売新聞(2021年11月7日付)が独自アンケート調査で、学校配布タブレットに関するアンケート調査の結果を報じている。東京新聞の調査では都内で6つの自治体が学校配布タブレットによるいじめを確認しているという。読売新聞は全国74の自治体の調査によって14の自治体で誹謗・中傷などのトラブルを認識しているとする。読売新聞の報道では、いじめ以外にタブレットによるアダルトコンテンツの視聴や授業以外での利用などの問題も指摘している。 象徴的な事件は、2020年11月、東京都町田市立小学校に通っていた6年生の女子児童が、学校配布のタブレットに書き込まれた誹謗中傷により自殺に追いやられたという事件だ。ここでは、配布端末のパスワードが全員共通という運用がなされ、なりすましが容易だった点が問題になった。悪口を書き込んだ人間が特定できない運用が、安易な誹謗中傷やいじめにつながった可能性がある。 配布端末については、不透明・不適切な機種選定、学校LAN環境・リソース不足、指導員不足と教員側のスキル問題、端末購入費の負担なども問題になっている。しかし、これらの問題は学校PC導入、デジタル教科書でも同様に語られた問題であり、学校ICTの積年の課題でもある。いじめの問題にしても同様だ。学校や授業に関係ないレベルでインターネットの掲示板、学校裏サイト、LINEなどのメッセンジャーアプリがその下地、あるいはツールになっているという指摘もある。 このことは、問題は学校ICTやデジタル化、セキュリティ対策の不備というレベルではなく、現状の教育現場が抱える構造的な問題である可能性を示唆している。

    対策の考え方やガイドライン

     したがって、根本的な解決は学校組織や運営を見直す必要がある。通信技術の発達は、組織におけるコミュニケーションやワークフローにも変革をもたらしている。加えて新型コロナウイルスのパンデミックによるオンラインコミュニケーションの広がりは、通勤や集団授業といった一世紀以上続く社会様式の意味を問い直している。アフターコロナでも、この動きは何らかの形で残る可能性が高く、以前とまったく同じ世界にはならないだろう。 話を広げすぎたが、そう考えるならば学校配布タブレットの諸問題も、単に共通パスワードをやめてフィルタリングや制限を強化すれば解決するというものではないことがわかる(もちろん共通パスワードはやめるべきだが)。端的に言えば、タブレットがない時代にも学校でのいじめや誹謗中傷はあったわけで、それをやめれば問題が解決するわけではないということだ。 では、どうすればよいか。答えは簡単ではないが、考え方や方向性についてはよい資料がある。文部科学省が作成・公開している「情報モラル教育の充実」というページでは、児童・教員向けにさまざまな資料、ガイドラインを閲覧・ダウンロードできるようになっている。また、同省による「情報化社会の新たな問題を考えるための教材」では、教員向けにICT活用授業やタブレット授業における細かい指導のアプローチ、注意点をまとめている。 前者の資料は、タブレットによる目の疲労や視力低下、使いすぎによる悪影響など健康管理、マナーやルールに関するものが主体だが、後者の資料は、タブレット指導における注意点やチェックシートなどが充実しており、いじめやフィルター超えのような問題へのヒント、ガイダンスが書かれている。

    ガイダンスやマニュアルの限界

     これらの資料には、情報モラル教育のカリキュラムの参考となるモデルやチェックシートも含まれているので、活用次第ではよい資料となり得るものだ。だが、モラルや道徳のような絶対的な正解や基準が設定できない対象を扱うため、「これをすればOK」という簡単な答えは載っていない。いわば、当たり前のことや概念的な解説しか載っていないので、そのまま実践資料にはならないという欠点がある。 なお、モラルや道徳のような抽象概念を、国が定量化してこうすればよいと固定的に教えることのほうが恐ろしいので、文科省としては詳細の運用や措置は、自治体(教育委員会)、学校、教員に委ねるしかない。これらの資料をどう活用するかは、最終的には自治体の意識・リテラシー、現場教員のスキルに依存することになる。 そのため、セキュリティのようななるべく統一されたポリシーで定量的に運用したい対策になじまない側面もある。もちろん、セキュリティポリシーは組織ごとに多様であってしかるべきなので、全国一律である必要はないが、たとえば「パスワードを共通にする」といった対策が決まったとき(そもそもこのルールはまったく推奨されないが)、その意味や影響、付随して必要となる措置や運用ルールについて、組織単位で共有され実践されなければならない。この連携がうまくいかなければ、インシデント発生は必至である。 組織や学校システムの構造的な問題の解決は簡単ではない。だが、放置してよい問題でもないので、時間はかかるが少しずつでも改善していく必要がある。その間は、対症療法的な対策も必要となる。報道などで指摘された問題や想定される課題について対策を考えてみたい。【次ページ】「子どものパスワードは親にも共有」の弊害

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